「疲れた人ー?」
と、よく聞く父だった

私が覚えているのは幼児の時
歩くのが疲れた私に
「疲れた人ー?」
と聞いた。
私はめちゃくちゃにわんわん泣きながら
「うんーわー!」
と言い、抱っこしてもらった

小学生の時
遊園地に家族で行った時に
「疲れた人ー?」
と聞いた。
私はあはあは笑いながら
「はーい!」
と言い、おんぶをしてもらい二人で笑った

中学生の時
友達とうまく行かず落ち込んだ私に
「疲れた人ー?」
と恐る恐る聞いた
私は一瞥も与えずに
「…」
無視をした

高校生の時に
試験の度に
「疲れた人ー?」
と夜食を持って聞いた
私は微笑みながら
「ありがとう。」
と答えた

大学生の時に
恋人からフラれた時
「疲れた人ー?」
と顔色を伺ってきた
「うん…うん。大丈夫。」
と言いながら静かに泣いた

就活の時
もう何社受けたかわからない時に
「疲れた人ー?」
と聞いた
「もう…もうやだなぁ。」
と答えたら
「うん。お疲れ様。」
と、脱ぎ散らかされたスーツをハンガーに掛けてくれた。

社会人になった時
一人暮らしを始めて
「疲れた人ー?」
と、急に電話をくれた
「はぁ…疲れたー」
という言葉に
「だろうな」
と夜遅くまで話を聞いてくれた

父が倒れたとき
何ともなささそうだったけど
「大丈夫?」と聞いた時
「はは…疲れた人ー?」
と聞かれた時に
「私は…大丈夫だよ」
と答えた
「そうか…そうだよな」
と言って父も私も目を瞑り眠った

翌朝目覚めた時
もう動かなさそうな父を見て
「疲れた人ー?」
なんて私が聞いた
答えは返ってこなかったから
静かにナースコールを押した

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