記事一覧

違う船

良い年になって、会社勤めが板につき始めた頃、また花は蕾になり始めた。 もう何年も過ごしてきたこの季節に、やはり痛烈に時間の進みを感じてしまいます。 最近になると…

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3年前

夜明けを待つ

「ねぇ。」 と白い息と共に吐いた。 「もう帰んの?まだまだ飲めるぜ?えへへ、 お前…もうしんどいの?ほら立てよ。」 と言ったのはもうすでに夜空を見上げ、仰向けになる…

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3年前
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あの頃のまま

キラキラとフワフワの間にある その輪郭をまだ覚えている スポットライトは眩しいが それを見る私は明らかにフワフワだった お酒を飲んであの人の言葉を聞く時 それを聞…

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3年前
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「疲れた人ー?」 と、よく聞く父だった 私が覚えているのは幼児の時 歩くのが疲れた私に 「疲れた人ー?」 と聞いた。 私はめちゃくちゃにわんわん泣きながら 「うんーわ…

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3年前

目の裏の金のざらざら

目を瞑ると、そこには金色に光るざらざらがあった。右側だけの、また、左側にあった。殴られた時にあったのとは違う。ただ眩しい何かがあった。 あれには名前はない。名前…

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3年前

あなたと私

 ある一軒家に、仕事が大好き!今日も今日の仕事のことが頭から離れない者と、今日は今日!一切の全てを過去にする者が一緒に住んでいた。仕事が好きな方は、「明日なにな…

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3年前

3人の女性

 ある男と女に、可愛らしい女の子が3人生まれた。  時を経て、両親、あるいは、本当の父ではない人が、彼女たちが、20歳を過ぎた時 「一人暮らしをしなさい。」  と、…

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3年前
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校門

 ある少年は放課後、校門で人を待っていた。  雨が降っていたので、側の教員用の駐輪場の屋根の下に身を隠した。ここには彼以外いない。 「…もうみんな帰っちゃったのか…

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3年前
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月の下には不安が眠っている。

『月の下には不安が眠っている!』 そう一緒に飲んだフラフラの男は信じて欲しそうであった。『何故って、真っ暗な夜空にあんなに明るいわけなじゃないか。俺はあの明るさ…

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3年前
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違う船

良い年になって、会社勤めが板につき始めた頃、また花は蕾になり始めた。
もう何年も過ごしてきたこの季節に、やはり痛烈に時間の進みを感じてしまいます。

最近になると、あの頃は、とよく考えるのですが、もはや、大人になってしまったと感じえないのです。
昔は20代の半ばなど、大人だなぁ、とか、もうそんな歳なんだぁ、とか思っていたが、今ではもうあの頃は、と思うようになったのです。
お金も無く、どうやって楽し

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夜明けを待つ

「ねぇ。」
と白い息と共に吐いた。
「もう帰んの?まだまだ飲めるぜ?えへへ、
お前…もうしんどいの?ほら立てよ。」
と言ったのはもうすでに夜空を見上げ、仰向けになるAだ。

「わかった。またね。」
と白い息は途切れない。
「…今度っていつだ?聞いても良いのか?聞いちゃいけないことを聞くほど野暮じゃねぇ。で、明日か?明後日か?」
と困らせるのはいつものことだけど、少しだけAはいつもよりしつこい。

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あの頃のまま

キラキラとフワフワの間にある
その輪郭をまだ覚えている

スポットライトは眩しいが
それを見る私は明らかにフワフワだった

お酒を飲んであの人の言葉を聞く時
それを聞く私は明らかにキラキラだった

いつからカッコつけなくなったのかと
そうフワフワ思ったり

俺はまだなにかやれるんじゃ?
と、キラキラしたりした

生きるってそんなもんだ
どっちに振り切るかってそんなもんだ

振り切れない私は
中途半

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「疲れた人ー?」
と、よく聞く父だった

私が覚えているのは幼児の時
歩くのが疲れた私に
「疲れた人ー?」
と聞いた。
私はめちゃくちゃにわんわん泣きながら
「うんーわー!」
と言い、抱っこしてもらった

小学生の時
遊園地に家族で行った時に
「疲れた人ー?」
と聞いた。
私はあはあは笑いながら
「はーい!」
と言い、おんぶをしてもらい二人で笑った

中学生の時
友達とうまく行かず落ち込んだ私に

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目の裏の金のざらざら

目を瞑ると、そこには金色に光るざらざらがあった。右側だけの、また、左側にあった。殴られた時にあったのとは違う。ただ眩しい何かがあった。

あれには名前はない。名前などあってはたまらない。あんなメリーゴーランドのような景色は、目を瞑っても味わえはしない。ただ、幾ばくかの"あぁ私は生きているのだ"という快楽なぞに、地獄の底まで引っ張られはしない。掴めそうで掴めないあの光は、ずっと遠く、ずっと近い。その

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あなたと私

 ある一軒家に、仕事が大好き!今日も今日の仕事のことが頭から離れない者と、今日は今日!一切の全てを過去にする者が一緒に住んでいた。仕事が好きな方は、「明日なになにのどこどこの人と商談がうんたらかんたら。」と、宣う一方で、「明日は、ちょっと…疲れたし休む。」という様子であった。

 さてここで、『兎と亀』を思い出して欲しい。兎は亀には勝てなかったのだ。あれは、おそらく『亀でも努力すれば勝てる』ことが

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3人の女性

 ある男と女に、可愛らしい女の子が3人生まれた。

 時を経て、両親、あるいは、本当の父ではない人が、彼女たちが、20歳を過ぎた時
「一人暮らしをしなさい。」
 と、言った。
 彼女達は外へ出た。
 三女は、多くの男達の家を渡り歩いた。彼女は面食いで、軽薄そうな男を囲い、夜な夜な飲み歩いていた。そして、街では大きな顔をして闊歩し、ネオンの街に消えていった。家に帰ることは、仕方なく少なかった。
 あ

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校門

 ある少年は放課後、校門で人を待っていた。
 雨が降っていたので、側の教員用の駐輪場の屋根の下に身を隠した。ここには彼以外いない。
「…もうみんな帰っちゃったのか。」
 駐車場の一台の自転車にカマキリが止まっていた。会話相手には、なりそうにない。
 まだ、放課後を過ぎて間もない頃だが、子供達の喧騒は聞こえない。し、おそらくみんな帰っていても息を潜めるように歩き、あるグループだけが、猛々しく笑って歩

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月の下には不安が眠っている。

『月の下には不安が眠っている!』
そう一緒に飲んだフラフラの男は信じて欲しそうであった。『何故って、真っ暗な夜空にあんなに明るいわけなじゃないか。俺はあの明るさが目障りで、この二三日眠れなかったんだ。しかしいまにわかるよ。月の下には不安が眠ってる。言いたいことはそれだけだ。』

 どうして俺が毎晩家へ帰って来る道で、俺の部屋の数ある道具のうちの、よりによってちっぽけな薄っぺらいもの、お気に入りのペ

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