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二つのアイドルの世界〜「完成型」と「共感型」〜

こんにちは。YASHIです。
私が大学浪人をしていた時に、予備校の英語講師がこんなことを言いました。

「高校野球はアメリカの同世代に比べるとレベルはかなり低いんだってな。だけどみんな感動して涙流したりするだろ?それが何でか分かるか?みんな全力でやってるからだよ。」

誰かが目標に向かって直向きに努力をしている姿を見ると自然と応援をしたくなり、そしてその目標を達成してもしなくても感動することはよくありますよね。しかし、一方で仮にその人が努力しているとしても、完全実力主義で「結果」だけでしか評価されない場合もあります。

今回は上記のテーマに関連したガールズグループ(アイドル)の現状を日本の音楽市場の事も交えて意見を綴っていきたいと思います。

〜追記〜
本記事の内容につきまして、一部日本のアーティストおよびファンの方が不快に感じられる内容が盛り込まれており、またそういった内容に至った執筆理由を本文内に明記できていなかったため、お詫びと説明のnoteを別に書かせていただきました。よろしくお願いいたします。


成長への共感

ダンスや歌唱面では「K-POPはすごい」という秋元氏は、対して「日本のアイドルはドキュメンタリーなんです」と語る。「夢がかなうまでの物語を、みんなが見ている。AKB48のコンセプトは後付けで言うと、高校野球なんです。(後略)」
ORICON NEWS「秋元康氏、BNK48の大ヒット要因を語る かつての海外進出失敗を経て…」

秋元康氏はAKB48を「高校野球」に例えています。夢を叶えるためにメンバーが直向きに努力して成長する段階を見せていく事で、そこにファンが共感して応援をしていくというグループのスタイルかと思います。総選挙で1位を取ればファンも涙をし、負けたメンバーはファンとともに次は勝とうと一丸となって戦います。

つい先日から坂道グループの一つである櫻坂46の3期生ドキュメンタリーが配信されています。メンバーの中にはダンス未経験者も多いのですが、難易度の高い2ndシングルである「BAN」が課題曲となり皆大苦戦をします。指導する側も気を抜かず厳しく接しますので、苦しさから涙を流す子がほとんどです。しかし、彼女たちは最後まで諦めず合宿に食らいついていきます。
動画には彼女達の頑張る姿に「勇気をもらえた」、「応援したい」というコメントが多く寄せられています。

このように、目標に向かっていく「情熱」に惹かれている、つまりは「共感」という応援スタイルが日本のアイドルファンには多いのではないかと思います。



完成されたアーティスト

「K-POPがプロ野球だとしたら、AKBは高校野球かもしれない」
秋元康は、過去にこのような発言をしたことがある。
それは、けっして卑下でも自虐でもなかった。みずからがプロデュースするAKB48グループを冷静に分析したうえでの認識だ。
実力(歌唱力やダンス)ではK-POPに劣るが、人気では十分に比肩する──そのように自己分析していたのである。
なるほどそれはうなずける。
現代ビジネス AKBが開いたパンドラの箱『PRODUCE 48』の代償と可能性

秋元康氏はK-POPをプロ野球に例えていたと現代ビジネスの記事では書かれています。つまり、パフォーマーとして「専門化」であるのがK-POPであると言い換えることができるかもしれません。

こちらは1月に日本デビューを果たし、かなりの人気を獲得しているルセラフィムのデビュー前ドキュメンタリーです。先程の櫻坂46の3期生とは異なり、人気アイドルグループ出身者2名を中心に全員が即戦力メンバーです。つまり、デビュー前からほぼ「完成状態」です。元々韓国では数年の練習生期間を経てのデビューがスタンダードですし、オーディション番組も厳しめな審査のため、全くの未経験者がデビューすることはまずありません。

もちろん日本のアイドルも全てが「成長する段階」をコンセプトとしているわけではありません、数年前に解散した高いダンススキルを持った「E-girls」や、かつてソロアイドルとして一世風靡した「松浦亜弥」なども高いパフォーマンススキルを持って活動していました。



「完成型」と「共感型」の戦い

音楽ビジネス

ここから本題に入りますが、コンセプトが違うから日本と韓国のアイドルは比較できないとよく言われます。パフォーマンス評価などではそのように言っても良いかもしれません。しかし、「成長段階」を見せるアイドルも「完成系」を見せるアイドルどちらも「音楽産業」では同一線上に存在しています。特に売上&視聴チャートでは必ず同列で扱われます。なぜならば、チャートは全て数的結果で順位付けをしたものだからです。つまり、秋元康氏の例えを用いていうのであれば、「プロ野球選手」も「高校球児」も同じグラウンドで試合をしているということになります。
ここで忘れてはならないのは、音楽もまた「ビジネス」であるということです。1日100個売れるAという商品と1日1,000個売れるBという商品があるならば、Bという商品に力を入れるのが普通です。であるならば、音楽の世界も売れているまたは売れる見込みが高いアーティストに力を入れるという動きをしても何ら不思議ではありません。
もし、同じグラウンドで試合をした場合に「高校野球」の方が観客動員数が高くて企業のスポンサーが多くつくのであれば、メディアは「高校野球」を中心に取り上げるでしょう。その方が視聴率も上がります。つまり、「最重要なのは大衆人気が高く大きな収益が得られるかどうか」ということになります。



アイドル好きの二分化

「プロ野球」と「高校野球」という例え方をこれ以上使用するのは良からぬ語弊を生む可能性がありますので、それぞれ「完成型」と「共感型」に変換をして記述していきます。

10年以上前のAKB48大全盛期時代(前田敦子や大島優子など神7メンバー在籍時)は、この「完成型」と「共感型」が市場で大激突した時代でもありました。同時期にK-POP第2世代の筆頭である「少女時代」と「KARA」が日本進出をしてきたのです。この二組は日本でも大ヒットし、メディアにも多く出演しました。当時は技術面などを中心に、お互いのファンが対立していたことを覚えています。
ここからは私の推測ですが、これを境に日本人の女性アイドルへの嗜好性は「完成型」と「共感型」に真っ二つに分かれたと思います。当時の日本のアイドルシーンはAKBグループやももクロなどが席巻しており、E-girlsのような日本の「完成型」アイドルは市場の最上位層に食い込むことができていなかったように思います(売れてはいました)。その代わりにK-POPグループが「完成型」アイドルとして、日本でその座を獲得します。その結果として「完成型」アイドルに憧れる若い日本人の女性達はK-POPに目を向けていきます。
その代表がTWICEのミナ、サナ、モモでしょう。そしてそこにJYPの練習生となったKep1erのマシロやNiziUのマコなどが続きます。

日本のアイドルシーンにおいては、AKB48の公式ライバルとして乃木坂46が誕生します。乃木坂46は瞬く間に日本アイドルの中で最大勢力に上り詰め、それと同時に大衆知名度も高い生駒里奈、白石麻衣、齋藤飛鳥、西野七瀬などのメンバーも所属していました。先に挙げたTWICEが日本に進出し多くのファンを獲得するも、日本の音楽市場最大勢力としての乃木坂46の地位は長らく揺らぎませんでした。

このような流れによって、「完成型=K-POP」と「共感型=48&46グループ」という二つの勢力によって日本のアイドル市場の上層は固められていきます。



「完成型」と「共感型」と感性

「共感型」の広い国内土壌

K-POPと比較してスキル面で非常に叩かれやすい秋元康氏のグループですが、そもそもこれだけヒットを記録したというのは、「共感型」というアーティストスタイルがそれなりの数の日本人の感性に刺さったということです。「情熱」を持って成長していくスタイルが多くの人々の共感を得ているということです。

私が好きであった欅坂46(現櫻坂46)は特に「パッション」を強く押し出したグループでした。そのパッションは激しい振り付けと比例しています。

ダンス素人ながら筆者がTAKAHIROの特徴を挙げるとすれば、手や足の動きそのものだけでなく、ステージ全体の見せ方〜視覚的な効果など、ミクロな要素に加えてマクロ的な視野で大きくダンスを捉えている点と、それを連続した時間軸の一瞬として捉えている点にあるように思う。さらに言えば、こと欅坂46に関しては実際に踊る彼女たちの”成長”をダンスに組み込み、1曲1曲を独立した作品としてではなく、関連した物語のひとつとして見せることで、ダンスの視点からもグループの成長を映し出しているのが画期的だ。それによってひとつのグループを振り付けし続けることの意味も生まれている。
REAL SOUND
「欅坂46のダンスは、なぜ見る者を惹きつける? “成長”と“心情”を意識した振付を考察」

上記の記事のように欅坂46は成長物語を見せる「共感型」でありつつ、歴代のシングルのセンターを務めた平手友梨奈を中心に高いパフォーマンス力を見せてきました。

しかし、その高いパフォーマンス力や表現力は、果たして特に国外に向けて発信された際に評価されるものでしょうか。

ここで、日韓合同オーディション番組「produce48」に出場し、AKB48を卒業後、現在はK-POPグループ「Rocket Punch」に所属する高橋朱里さんのインタビューを見てみます。

──そうとう得たものもあったんじゃないですか。とくにダンスは、AKB48とは違ったものでした。

そうですね、レベルが違ってすごく大変でした。とくに腰の使い方が日本と韓国では違います。韓国ではセクシーさが絶対にないといけない。リズムのとり方がアイドルというよりダンサーなんです。見せ方も含めてセンスがないとできないんです。

──今後、AKB48にその経験や能力を持ち込まないのでしょうか?

そのつもりで私はやってます。だけど、全体のシステムを変えることは難しいと思うし、それを強要するのはファンのひとに対しても違うと思うんです。(後略)
  現代ビジネス 「高橋朱里が『PRODUCE 48』で痛感した「日本と韓国の違い」」

私がインタビューの中でも特に気になった箇所を抜粋しました。
その中でも、「リズムのとり方がアイドルというよりダンサー」、「(オーディションでの経験や能力を)ファンに強要するのは違う」という2点は非常に興味深い点です。
まず、リズムのとり方という点では、コンテンポラリー中心の今の坂道グループのスタイルとは大きく異なっているでしょう。そして、そのリズムの取り方に適応できるメンバーがどれだけいるかは、実際にやってみないとわかりません。国内で評価されているその高いパフォーマンスが、海外の方に響くかどうか不安を生じさせます。

そして、K-POPという「完成型」を目指す世界で生きる練習生達から受けた刺激や能力は、AKB48のファンが求めるものではないと高橋さんは自覚しています。おそらくですが、この48グループで求められるものと自分が目指したい領域の相違から、宮脇さんと高橋さんは韓国を拠点に選んだのでしょう。


そして、この記事のインタビュアーさんは高橋さんのインタビューを踏まえて最後にこのように語っています。

ひとつ提案をするならば、ダンスや歌の実力を基準とし、海外展開も想定した新たなグループの誕生が望ましい。

言うなれば、AKB48グループ全体の精鋭チームだ。他グループとの兼任もなく、握手会もほどほどに、ダンスと歌を入念に磨いて曲とパフォーマンスに特化するようなイメージだ。

『PRODUCE 48』で高橋が吸収し、K-POPが当たり前のようにやっていることを、日本でもやるのである。

もちろんその際は、従来の48グループとはかなり体制が異なってくるはずだ。トレーナーを常駐させ、楽曲もダンスもミュージックビデオもグローバル基準で入念に制作しなければならない。

高橋が持ち帰ってきたものを発揮するためには、従来の環境自体を変えていくことが必要とされる。

(後略)
現代ビジネス 「高橋朱里が『PRODUCE 48』で痛感した「日本と韓国の違い」」

つまりは、高橋さんのような厳しい世界を経験して得られたハイスキルが活かせる「完成型」のアイドルを作れということを提言しています。

おそらくこの意見については、特にK-POPファンや洋楽好きの方を中心にかなり共感を得られるのではないでしょうか。(ちなみにこの意見に非常に近い形を実践したのがavexであり「XG」が誕生しています)

ただ、このインタビュアーの方は重要な点を抑え忘れています。
高橋さんが「(オーディションでの経験や能力を)ファンに強要するのは違う」と語っている点です。そもそも、ファンが望んでいないのに「完成型」アイドルを作ったところで意味がありません。実際にAKB48の実力派メンバーで構成された「DiVA」は派生グループの中ではヒットしたとはいえず、自然消滅のような形で解散となりました。

音楽ビジネスの項目で記述した通り、AKB48最盛期の後は坂道グループがアイドル市場の上位を席巻します。つまり、「共感型」を好む相当数のアイドルファンのそもそもの感性が変わらない限り「完成型」のアイドルに流れることはないでしょう。そして、市場の上位でメディア的にも目立つ国内アイドルは全て「共感型」ですので、「完成型」として最も目に付くK-POPが専有権を獲得したのです。



純国産「完成型」は日本人のスタンダードになり得るか

このタイトルに関しては、早速ですが可能性はかなり低いと思います。何かしらの活動で多少は増えたとしてもスタンダードになることはないでしょう。そもそもの話として、日本の音楽市場自体がガラパゴス化しているのですから、そこから変えていく必要があるという壮大な話になります。

日本の音楽業界には・・
[日本人が好む音楽を作る→日本は人口が多い→ある程度売れる→また日本人が好む音楽を作る]
良くも悪くも、この自己完結的なサイクルで長年成り立っています。
MIXFUN! 「[音楽センスの磨き方] なぜJ-POPは世界で孤立してしまったのか」

究極的な言い方をすると、音楽市場は世界基準に出る必要は全くないということです。「共感型」は国外でも通用する「完成型」に移行する必要はありません。

よくこの手の話になるともっと広く世界の音楽を聴くように促す流れがありますが、例えば乃木坂46が一番好きな方にSZAのことを熱く語っても響く割合は低いと思います。(洋楽好きも多いと思うので、もちろん全員とは言いません。)根本的に興味がないものに興味を持てというのは無理があります。

私個人としては、音楽市場のガラパゴス化の最も大きな弊害であり大罪は、国民の音楽嗜好性(感性)をガラパゴス化させたことだと思っています。
これを止める手段は、もはやメディアの印象操作(つまり同じことの繰り返し)以外は今のところ思いつきません。



アーティストの尊重

私が思うにガラパゴス化自体はインダストリーとメディアの責任であって、アーティストには責任はありません。
そしてそのような音楽業界の中でも多くの優秀で才能溢れるアーティストがいます。そして、今まで挙げてきた日本のアイドルも多くの人々に共感され、そしてその歌詞に救われたという人々もいます。彼女達の存在は否定されるべきではないと思います。アーティスト自体をガラパゴス化の象徴として直接攻撃することには断固反対します



終わりに

私自身は日本のアイドルもK-POPもその他海外アーティストも含めてリスペクトしていますし、それぞれ否定をしたいとは思いません。(多少の好き嫌いはありますよ)。
日本も韓国もそうですが、いわゆる「事務所」や「レーベル」によって活動が展開されているアイドルは、その与えられた目標や行動に従って動いていることがほとんどだと思いますので、例えばK-POPと比較して劣っているということを坂道グループのメンバーに直接指摘してもどうしようもない話です。プロデュース陣引いては音楽業界全体に文句を言うのならわかります。

SKY-HIさんが「D.U.N.K.」というダンス&ボーカルシーンの垣根を取り払って様々なアーティストが交流できるプロジェクトを始動されています。
アイドルの世界も垣根を取払い、K-POPも坂道もハロプロも様々なアーティストがコミュニケーションが取って交流できる環境を構築していくことも面白いのではないかと思います。


今回はなかなかまとまりのない内容になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

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