見出し画像

占い師が観た膝枕 〜ワニと箱入り娘編〜

※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。

今井雅子さん作の「わにのだんす」きぃくんママ作 「おめでとう『膝枕』100日リレー記念な~もしも膝枕がワニに拾われたなら~」占い師が観た膝枕〜熱量7割の男編〜の登場人物も出てくる流れになっています。

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️

できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

サトウ純子作 「占い師が観た膝枕 〜ワニと箱入り娘編〜」


急に空が暗くなった。

窓から不自然な光りが一瞬差し込み、次の瞬間、割り裂く轟音と共にバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。

普段、廊下で繋がっているようなこの商店街も、こういう雨の時は雨のカーテンで完全に孤立した状態になる。

占い師は、雨音に紛れる話し声に気づき、そっと扉を開けた。

「あ、すみません。雨宿りさせてもらっているワニ」

軒下には、ワニがいた。
といっても、動物園で見るようなワニではない。赤のハットを被り、黄色のジャケットを羽織って二本足で立っているワニである。

「私はワニだから、雨に濡れるのは平気ワニけど、この子たちは雨が苦手ワニ」

ワニが抱えている段ボール箱に、占い師は見覚えがあった。

「中で休んでいきませんか?」

占い師がタオルを差し出すと、ワニはその占い師の手をジッと見て言った。

「驚かないワニか?」

「何が、ですか?」

占い師はキョトンとした顔でワニを見る。

「そうワニか」

ワニは一瞬、手元の段ボール箱に目を落とし、しばらく空を仰いでいたが、突然思い立ったように占い師の方に体を向けた。

「観てもらおうかな。ちょうどモメていたところワニ」

お金ならいっぱい持っているワニよ?と、ワニはジャケットの胸ポケットに刺してある札束を見せた。


「で、モメているのはこの二人ワニ」

ワニは、湯呑みを口に傾け『アチッ』と顔を歪めると、立ち上がる湯気を手でパタパタ仰ぎはじめた。

ワニを挟んで両脇に座っているのは、オーブンレンジでも入っていそうな大きさの段ボール箱と、女の腰から下しかない『おもちゃ』のようなモノ。占い師はそれが「膝枕」であることを知っていた。

「しーちゃんは、アイドルになりたいワニよ」

その言葉と共に、横に座っている膝枕が膝頭をパチパチと合わせる。どうやら『しーちゃん』というのはこの膝枕の名前らしい。

「でも、ママはそれを許さないワニ。『何の為に箱に入れて大事にしてきたと思ってるの⁉︎』と、怒っているワニ」

逆側に座っている段ボール箱の蓋がパタパタ動く。

「雨で濡れそぼっていたこの二人を連れて、一緒にドサ回りをしていたワニ。でも、そろそろ二人はワニの国を卒業した方が良いと思って、こっちに連れてきたら、いきなり大喧嘩をはじめたワニよ」

ワニの話によると「ママ」と呼んでいるこの段ボール箱は、あくまでも膝枕は「箱入り娘」のまま、嫁に出す!と、言い張っているらしい。

「ただ、しーちゃんは、ドサ回りをしているうちに、やりたい事を見つけちゃった!という事ワニ」

『そうそう!』と言うように膝枕が弾む。
ワニを挟んだ隣で、段ボール箱が蓋をギュッと閉じてワナワナ震えている。

「このままでは心配でワニの国に帰れないワニ」

ワニは大きな顎を胸元に引いて小さくため息をついた。

雨の音が店の中に響き渡る。
風も出てきたのか、さっきよりも一層窓を叩きつける音が激しくなっていた。


「なんだよ!急な呼び出しに、急なこの雨!本当になんなんだ!」

店の軒先で男の人の声が聞こえてきた。聞き覚えのある声だった。

「すみませーん。雨宿りついでに観てもらえますか?今度こそ会社辞めようと思って…

……え、え、ちょっと待って!わにだんのワニさんじゃないですか!」

その男は目をキラキラさせながら、手前のテーブルにあった椅子を引き寄せ、コの字になる位置にちゃっかりと座った。この感じ、思い出した。熱量7割の男だ。

「え!ワニさんが認めた膝枕ですかっ?凄いじゃないですか!アイドルになりたい?いいじゃないですか!」

そう言いながらも、男の目はワニに釘付けである。横で段ボール箱が蓋をバタバタさせながら必死に抗議をしている。

「驚かないワニか?」

「何が、ですか?」

男はキョトンとした顔でワニを見る。

「そうワニか」

ワニは、ブラックミラーに映る自分を横目で確認し、軽く首を傾げた。

「いやいや、それよりママさん。こちらのワニさんが何者かご存じです?『わにのだんす』に出ているワニさんですよ!こんなところでお会いできるだなんて…」

少し涙ぐんでいるのだろうか。男の声が震えている。

「とにかく!このワニさんの見る目は確かなんです!」

男は真剣な目で段ボール箱に向かって熱弁をし始めた。ノートパソコンを開いて、いろいろなデータや事例を引っ張り出してきては、ワニや膝枕にもそれを見せている。


「後でうちの会社に来てください!今後のことをじっくり話し合いましょう!」

男は段ボール箱の片方の蓋と、ワニの手を取り、握手を交わした。どうやら話しがまとまったらしい。

「一人でデビューより、グループを組んだ方が良いワニよ。…いやいや、この際、メンバーを公開オーディションで決めるって言う手もあるワニ。その方がデビュー前にファンをつけることができるワニ」

「なるほど。それはいい!公開オーディションの課題曲を「プログラミングなんかじゃないわ」にして、デビュー曲は「離れられない運命なの」とか。カップリングは「ヒサコの歯ブラシ」なんていいかも!」

ヤバい。企画賞とれるかもしれないぞ!
熱量が突然10オーバーに跳ね上がった男は、目の前にあったお茶を一気に飲み干すと、「それでは、後ほど!」と、スキップでもしそうな軽い足取りで扉の外に消えて行った。


雨はもう、止んでいた。

「いろんな人がいるワニ」

湯呑みを口に運ぼうと、前を見たワニはギョッとした。占い師が、体を突き通すほどの鋭い視線でワニをジッと見つめていたのだ。

ワニが慌てて胸ポケットからお金を出そうとすると、占い師はお金には目もくれず、興奮気味に声をうわずらせて言った。

「ワニの舌って、下顎にくっついてるんですね」

雨が止んだ商店街は、閉ざされていたカーテンが開き、人の流れが店を繋ぎはじめる。

「本当にいろんな人がいるワニ」

ワニは占い師に背を向けて口に湯呑みを傾けながら、BGMに合わせてシッポをバンバン床に打ちつけた。


この記事が参加している募集

私の作品紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?