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買い物中の魔女と犬


僕と彼女は、近所のスーパーで夜ご飯の材料の買い物をよくする。

『買い物をする時は必ず二人で!』彼女が作ったルールだ。理由は、僕が一人で買い出しに行ってしまうと、値段を見ないで買い物かごに商品を入れてしまうからだ。

過去に彼女におつかいを頼まれたことがある。彼女に褒められたかった僕はすぐさまに家を飛び出し、買い物を終え、少年のような笑顔で買い物袋とレシートを彼女に手渡した。それを笑顔で受け取った彼女だったが、レシートに目を通した時の彼女の顔は、この先僕は忘れることはないだろう。忘れてはいけない気がする。その時の彼女の表情を言葉で伝えられないのが残念だ。

それ以来買い物中は、僕は彼女の後ろを買い物カゴを持ってひたすらついていく、散歩中の犬と主人のような関係になってしまった。というか、あの日の彼女の顔が忘れられず、自分から犬になったと言った方が正しいかもしれない。あの日密かに誓った忠誠心がそうさせた。

買い物をしていると、彼女は何を食べたいか毎度聞いてくる。結論から言うと僕の意見が通る時はほぼ無い。買い物かごの中には最初から決められていたかのように、僕のリクエストとは違う商品ばかりが入っていく。最初から聞くなとは口が裂けても言えない。たぶん彼女は覇王色の覇気を使えるのだと思う。

一通り買い物が終わると彼女は必ず、果物コーナー、お菓子コーナー、アイスコーナーのどれかに向かい、足を止める。これどんな味するのかな?これ美味しいよね!など商品を見て伝えてくる。そして、買っていい?と聞いてくるのだが、彼女は僕がダメと言えないのを知って聞いてきていると思う。根拠は勿論ある。買っていいか聞いてきた後、僕が良いよと言う前に商品がすでに買い物かごの中に入っているのだ。それに気づいても僕は見て見ぬふり。

自在に僕を手懐けて、自分の考え通りに円滑に、時に冷酷に買い物を進める彼女は魔女だ。そして僕はそれに従順な忠誠心の強い犬だ。

こんな事を言っても不満は一つもない。

なぜなら、リードの他にしっかり胃袋も掴まれたからだ。

これからも末永く僕は魔女にお仕えするだろう。

、、、わんっ。


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