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『社会契約論』原典精読01

 皆さまこんにちは。

 哲学者ルソーのことを詳しく知ってもらおうと始めた過去の記事がある程度のボリュームに達し、軌道に乗り出したように思えるようになってきました。私の見立てによると、これまでの記事の中でもとりわけ『社会契約論』についての記事で「スキ」をたくさんいただけているように感じます。

 そこで、新たな試みを始めてみようと思い立ちました。どれくらいの方々に需要があるか分かりませんが、やってみます。その名も「フランス語でルソー『社会契約論』を読む」シリーズ(その名もといいながらタイトル名が違うのはご愛嬌)。何本の記事に分かれるのか全く先が読めませんが、楽しんでいただければ幸いです。

 それでは早速読んでいきましょう・・・とその前に本シリーズのことについていくつか「凡例」と題して最初にお断りをしておきます。


凡例

①原文は原則として「Wikisource」から引用することとします。今までの記事でルソーの原文を紹介したときには、定評のあるRousseau, Jean-Jacques. Du contrat social, Œuvres complètes, III, Éditions Gallimard, 1964.を出典にしてきたのですが、現状ではGallimard社の『ルソー全集』は手に入りにくく、入手できるとしても価格が高騰していると思われますので、本シリーズの目的を鑑みて、誰にとってもアクセスしやすいものを原文の引用に用いることに決めました。よって、etが&の記号で表記されていますが、このままの表記で引用します。

②日本語については基本的に本アカウントの管理者に文責がありますが、その都度既出の邦訳各書を参考にしています。

③本シリーズでは、上記の①および②のような方法で記事を執筆します。したがって、本文を引用する際に、原文・日本語ともに対応する頁数を示すことは現段階では考えていません。ただし、『社会契約論(Du contrat social)』以外の書籍から引用をする場合にはこの限りではありません。


ではまずは、目次を掲載しておきましょう。

目次(原文)

LIVRE I.  Où l’on recherche comment l’homme passe de l’Etat de nature à l’état civil, & quelles sont les conditions essencielles du pacte.

CHAPITRE I.  Sujet de ce premier Livre. 
CHAPITRE II.  Des premieres Sociétés. 
CHAPITRE III.  Du droit du plus fort. 
CHAPITRE IV.  De l’esclavage. 
CHAPITRE V.  Qu’il faut toujours remonter à une premiere convention. 
CHAPITRE VI.  Du pacte Social. 
CHAPITRE VII.  Du Souverain. 
CHAPITRE VIII.  De l’état civil. 
CHAPITRE IX.  Du Domaine réel. 


LIVRE II.  Où il est traité de la Législation.

CHAPITRE I.  Que la souveraineté est inaliénable. 
CHAPITRE II.  Que la souveraineté est indivisible. 
CHAPITRE III.  Si la volonté générale peut errer. 
CHAPITRE IV.  Des bornes du pouvoir Souverain. 
CHAPITRE V.  Du droit de vie & de mort. 
CHAPITRE VI.  De la Loi. 
CHAPITRE VII.  Du Législateur. 
CHAPITRE VIII.  Du peuple. 
CHAPITRE IX.  Suite. 
CHAPITRE X.  Suite. 
CHAPITRE XI.  Des divers sistêmes de législation. 
CHAPITRE XII.  Division des Loix. 


LIVRE III.  Où il est traité des loix politiques, c’est-à-dire, de la forme du Gouvernement.

CHAPITRE I.  Du Gouvernement en général. 
CHAPITRE II.  Du principe qui constitue les diverses formes de Gouvernement. 
CHAPITRE III.  Division des Gouvernemens. 
CHAPITRE IV.  De la Démocratie. 
CHAPITRE V.  De l’Aristocratie. 
CHAPITRE VI.  De la Monarchie. 
CHAPITRE VII.  Des gouvernemens mixtes. 
CHAPITRE VIII.  Que toute forme de Gouvernement n’est pas propre à tout pays. 
CHAPITRE IX.  Des signes d’un bon Gouvernement. 
CHAPITRE X.  De l’abus du Gouvernement & de sa pente à dégénérer. 
CHAPITRE XI.  De la mort du corps politique. 
CHAPITRE XII.  Comment se maintient l’autorité souveraine. 
CHAPITRE XIII.  Suite. 
CHAPITRE XIV.  Suite. 
CHAPITRE XV.  Des Députés ou Réprésentans. 
CHAPITRE XVI.  Que l’institution du Gouvernement n’est point un Contract. 
CHAPITRE XVII.  De l’institution du Gouvernement. 
CHAPITRE XVIII.  Moyen de prévenir les usurpations du Gouvernement. 


LIVRE IV.  Où continuant de traiter des loix politiques on expose les moyens d’affermir la constitution de l’Etat.

CHAPITRE I.  Que la volonté générale est indestructible. 
CHAPITRE II.  Des Suffrages. 
CHAPITRE III.  Des élections. 
CHAPITRE IV.  Des comices romains. 
CHAPITRE V.  Du Tribunat. 
CHAPITRE VI.  De la Dictature. 
CHAPITRE VII.  De la Censure. 
CHAPITRE VIII.  De la Religion civile. 
CHAPITRE IX.  Conclusion. 

目次(日本語版)

第1篇 - 自然状態、社会状態、社会契約の本質的諸条件

第1章 - 第1篇の主題
第2章 - 最初の社会について
第3章 - 最も強いものの権利について
第4章 - 奴隷状態について
第5章 - つねに最初の約束にさかのぼらねばならないこと
第6章 - 社会契約について
第7章 - 主権者について
第8章 - 社会状態について
第9章 - 土地支配権について


第2篇 - 立法

第1章 - 主権は譲りわたすことができないこと
第2章 - 主権は分割できないこと
第3章 - 一般意志は誤ることができるか
第4章 - 主権の限界について
第5章 - 生と死の権利について
第6章 - 法について
第7章 - 立法者について
第8章 - 人民について
第9章 - 人民について(つづき)
第10章 - 人民について(つづき)
第11章 - 立法の種々の体系について
第12章 - 法の分割


第3篇 - 政府の形態

第1章 - 政府一般について
第2章 - 政府のさまざまの形態をつくる原理について
第3章 - 政府の分類
第4章 - 民主政について
第5章 - 貴族政について
第6章 - 君主政について
第7章 - 混合政について
第8章 - すべての統治形態は,すべての国家に適合するものではないこと
第9章 - よい政府の特徴について 
第10章 - 政府の悪弊とその堕落の傾向について
第11章 - 政治体の死について
第12章 - 主権はどうして維持されるか
第13章 - 主権はどうして維持されるか(つづき)
第14章 - 主権はどうして維持されるか(つづき)
第15章 - 代議士または代表者
第16章 - 政府の設立は決して契約ではないこと
第17章 - 政府の設立について
第18章 - 政府の越権を防ぐ手段


第4篇 - 国家の体制

第1章 - 一般意志は破壊できないこと
第2章 - 投票について
第3章 - 選挙について
第4章 - ローマの民会について
第5章 - 護民府について
第6章 - 独裁について
第7章 - 監察について
第8章 - 市民の宗教について
第9章 - 結論


標題

 さて、ここからは本格的に内容を見ていくことにします。しかし、早速出鼻を挫くようですが、『社会契約論』の原文の本のタイトルに、とある問題が控えているのです。本文を見る前にタイトルを見ておきましょう。

DU 

CONTRACT SOCIAL ; 

OU, 

PRINCIPES 

DU 

DROIT POLITIQUE.


注目すべきはCONTRACTの部分。現代ではこの箇所がCONTRATと書かれたものが広く流布しています。しかしこのCONTRAT版はもともと海賊版だったのではないかと言われているのです。

 だから何だ、と言われてしまえばそれで終わりですし、ここでこのことを深く論及したいわけではありませんので、このことが詳しく書かれたサイトを見つけましたから興味のある人はそちら(https://sakiya1989.hatenablog.com/entry/2020/04/09/203304)を見てください。


さて、気を取り直して本文を読みましょう。今回は、第一篇の冒頭の文章を読んでいきます。


LIVRE I.

Je veux chercher si dans l’ordre civil il peut y avoir quelque regle d’administration légitime & sûre, en prenant les hommes tels qu’ils sont, & les loix telles qu’elles peuvent être :

Je veux chercher〜と文が始まっています。「私が研究したいことは〜」という意味に取れますから、この文章がこの本全体の主題を表明した箇所であるということがわかります。

 そして、その主題にあたる箇所にはsiが用いられています。「もしも〜ならば」という言い方をして、ルソーがこの箇所で「もしも人間をあるがままの姿で捉え、可能な限り最善の法を定めようとするならば」という仮定を立てていることがわかります。

 以上のような仮定を取った場合、「正当かつ確実な統治の規則はあり得るだろうか」と言います。したがってこれが本書の主題なのだということが出来ます(むろんここには「あり得るのだとすれば、いかなるものなのか」ということまで含意されており、ルソーは「あり得る」と考えていることは言うまでもありません)。

 実際の翻訳ではもっとスッキリした日本語になっていますが、あえて逐語訳的に見てみることでむしろ論旨が分かりやすくなる場合があるのです。

 例えば「人間をあるがままの姿で捉え」の箇所。siが「もしも〜ならば」であることを踏まえれば、現在の人間は「あるがままの姿」ではないことが直ちに推論できます。この指摘は『人間不平等起源論』に端を発するものですが、その知識がなくともルソーの問題意識を正確にキャッチできるわけです。

Je tâcherai d’allier toujours dans cette recherche ce que le droit permet avec ce que l’intérêt prescrit, afin que la justice & l’utilité ne se trouvent point divisées.

 そして、Je tâcherai d’allier toujours dans cette recherche~と続きます。「この研究にあたって私が常々注意したことは」という意味で、注意した内容がce que、つまり関係代名詞の節内で「正義と効用とがけっして分離しないように、この研究のなかで権利が許すことと利益が命ずることとを常に結びつける」と述べられていきます。

J’entre en matiere sans prouver l’importance de mon sujet.

次に、この主題が重要であることを強調し、

On me demandera si je suis prince ou législateur pour écrire sur la Politique ?
Je réponds que non, & que c’est pour cela que j’écris sur la Politique. Si j’étois prince ou législateur, je ne perdrois pas mon tems à dire ce qu’il faut faire ; je le ferois, ou je me tairois. Né citoyen d’un État libre, & membre du souverain, quelque foible influence que puisse avoir ma voix dans les affaires publiques, le droit d’y voter suffit pour m’imposer le devoir de m’en instruire.
Heureux, toutes les fois que je médite sur les Gouvernemens, de trouver toujours dans mes recherches de nouvelles raisons d’aimer celui de mon pays !

と述べて自分がこのような主題を扱うことは投票権を持つものとしての義務感から行うものであること、そしてこうした研究が自分の国(ジュネーブ)を愛するのにつながることを述べます。(内容とあまり直接かかわりませんので解説は省きます)


 では、今回の内容を踏まえて次回からは本文へと実際に踏み込んでいくことにします。

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