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美しきルソー

 前回の記事で、『社会契約論』第二篇第十一章が「美しい」という話をしました。今回は、なぜあの引用箇所が「美しい」のか、を見ていくことにします。

前回の記事はこちら

 というのも、前回、

なぜ美しい文章だと思ったか、その理由くらいは説明しないと、さすがにルソーに怒られてしまいます。(前回の記事より引用)

と言ってルソーの引用をしたのですが、その引用直後に、

・・・ね。美しいでしょう?(前回の記事より引用)

とまさかの「説明なし」のまま、ただ美しさを讃美するだけで終わっていたからなのです。今回は、しっかり説明します。


美しいルソーの文章

Si l’on recherche en quoi consiste précisément le plus grand bien de tous, qui doit être la fin de tout sistême de législation, on trouvera qu’il se réduit à ces deux objets principaux, la liberté, et l’égalité. La liberté, parce que toute dépendance particuliere est autant de force ôtée au corps de l’Etat ; l’égalité, parce que la liberté ne peut subsister sans elle.〔注1〕

<1文目の読解>
あらゆる体系的立法の目的(qui doit être la fin de tout sistême de législation)であるべき、すべての人々の最大の福祉(le plus grand bien de tous)は、正確には一体何から成り立っているかを探求してゆくと(Si l’on recherche en quoi consiste précisément)、われわれはそれが二つの主要な目標、すなわち自由と平等とに帰着することがわかるだろう(on trouvera qu’il se réduit à ces deux objets principaux, la liberté, et l’égalité)。

<2文目(;より前までの読解)>
なぜ自由なのか(La liberté, parce que)。特殊的なものへの依存はどのようなものであれ、すべて国家という政治体から、それだけ力を奪うことになるから(toute dépendance particuliere est autant de force ôtée au corps de l’Etat)である。

<2文目(;以降の読解)>
なぜ平等なのか(l’égalité, parce que)。それがなければ自由は存続しえないから(la liberté ne peut subsister sans elle)である。

・・・ね。美しいでしょう?(デジャブか!)


自由と平等

 エッヘン。気を取り直して、何が美しいのか、について、ようやく説明に入ります。注目してほしいのは、「自由」と「平等」の関係性です。

<2文目(;以降の読解)>
なぜ平等なのか(l’égalité, parce que)。それがなければ自由は存続しえないから(la liberté ne peut subsister sans elle)である。

再度引用しましたが、この箇所で、「平等は自由の条件である」ということが明記されます。

 さて、この「平等は自由の条件である」という点に、私たちの感覚とのズレがあることに気が付きますか?

 私たちは一般的に、自由を推し進めると、平等がないがしろにされてしまう、と考えます。例えば、私と友人が2人で過ごす部屋に、お菓子が2つ置いてあるとします。私はその2つとも食べたいと思っている。でも、友人ももしかしたら食べたいと思っているかもしれない。この場合、私が2つとも食べてしまえば、友人はお菓子にありつくことはできなくなってしまいます。つまり、自由に食べることで、平等が阻害されるのです。

 一方、平等に1つずつ分け合って食べる、という平和的な解決を選ぶとします。その場合、自分が自由に食べられたはずのもう1つのお菓子は、友人の胃袋の中にあり、自分の自由が今度は阻害されたことになる。

 このように、「自由と平等は両立しない」という考えが、日本ではごく自然に通用しているように感じます。

 しかし、ルソーはそう考えていない。むしろ、自由と平等は切っても切り離せないものである、と軽々と言ってのけるわけです。

 この美しさ、少しは分かっていただけましたか? 納得がいった人も、いっていない人も、ぜひ実際のルソーの著作に触れ、「自由」を愛したルソーの息遣いを感じてみてください。


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本文中に〔  〕で示した脚注を、以下に列挙します。

〔注1〕Rousseau, Jean-Jacques. Du contrat social, Œuvres complètes, III, Éditions Gallimard, 1964, p.391.

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