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妻はゼミ生10:生命と感情に溢れる心よ蘇れ;システムのためにあくせく働く手先に成り下がってはいけない

妻はゼミ生を18年くらいやっています。もちろん、本当のゼミ生ではないですよ。私のくどい話を聞き続けて18年ということです。そして、「西洋的な個の誕生なんて、ルネッサンス頃よね」という話しが本当にしつこいと思った時は、「チョコチップの入ったオートミールが食べたいわ」と返してくるのです。

これが出たらね、ゼミは終了です。そして、「アーモンドとドライフルーツがゴロゴロ入ったシリアルも捨てがたいよ」という返事をしないと、その後、一週間口をきいてもらえなくなるという地獄を味わうことになります。

さて、今回は「功績主義を疑いなく血肉化した者が考える社会に抗う」です。

テレビでは「メンタリスト」という職業の人の発言がニュースになっていました。私はその人のことを良く知らないので、個別的なことを言っても的外れになります。ですので、広く一般的な傾向として、もう一度復習しておきましょう。

あくまで、ニュースの中で断片的に報じられていたことから考えたことですが、近年、「鉄の檻」の内側におけるメリトクラシー(功績主義)がジャスト・ワン・ワールド(一つだけの価値観の世界)であるかのようにあり、それを当然のように支持する人たちが目立つようになりました。

以前、鉄の檻に関して少し書きました。今回のケースでも、鉄の檻、つまり、人間の身体や生活世界を理論合理的な枠組で縛るシステムの内側で、教育システム、経済システムを使いこなしてポジションを得た人が、(そのポジションには就いていないものの)鉄の檻の外の価値観(お金にならないような友情や親切な行為なども)を大切にしている人を低く見做している様子が、弁明虚しく鮮やかに浮かび上がってきているように感じられます。(「俺は客だぞ」とか「私を誰だと思っているの?」など弱い立場にある人に強く出る人にも当てはまるでしょう)

「自分は多額のお金を納税し、(結果として)一般的な人よりも、支援を必要としている人に貢献している」、「支援を必要とされている人の中にも頑張っている人がいる」。言葉を裏返すと「(鉄の檻のシステムの価値観から見て)頑張っていない人は偉くない」というメッセージを滲ませてしまう。

鉄の檻の中の価値観が「お金をたくさん稼ぐこと」であれば、社会の為にすごく大切な役割をはたしていながら収入の少ない仕事は彼らから見下されてしまう危険さえある。だって、この立場から見れば「お金や地位などの地位財がヒトの価値を測る尺度」になってしまっているから。

そして、その人は、ものごとの価値を「自分にとって役に立つか否か」で測っていて、例えば、「猫の方が(自分の)役に立っている」と認識するに至る。そして、おそらく、あまりにも心の奥底にある当たり前の価値観であるゆえに、悪気があってというよりは、「本当に分からず(無邪気)」にすべては自分に奉仕するか否かに価値があると言い放ったところに問題の根深さがあると思われるのです。

以前にマイケル・サンデルの功績主義についてお話しした時に、同じようなことを書きました。

アメリカの哲学者マイケル・サンデルは、『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)で述べます。1990年代頃から、学生に「能力主義(メリトクラシー)」を普通に備えた学生が増えてきた、と。ここでいう能力主義をざっくり言うと「自分は社会が良いことだと考えることを積み重ねてきた。だから、自分はそれに見合った生活をするに値する人間だ」のように考える価値観という感じでしょう。
このロジックから言うと、例えば、貧しい暮らしをしていることは「社会が良いと認めること」を十分にしてこなかったからだ。自分に落ち度がない場合は、公的に支援しよう。そうでない(社会が良いと認めることを十分にしてこなかった)場合は「自業自得だ」という考えにつながる。そして、逆に、「社会が良いと認めること(学歴や評価)」を行ってきた者は、優遇された特権的な地位や待遇を受けられて当然だ」ということに翻訳されます。これは最近よく聞くネオリベ(新自由主義)的な「自己責任論」の考え方と重なります。

理論合理性は上手く使いこなすうちは良い道具だと思います。複雑な社会を運営することもできるし、近代化を推進するうえでも重要です。しかし、バランスが崩れると、人間はシステムを利用する側から、システムを体現するためにあくせく働くシステムの奴隷に成り下がります。システムはこう言うでしょう。「お金をあげれば言うとおりに動いてくれるんだよね」「システムの管理人としての良いポジションをあげれば言うとおりに働いてくれるんだよね」と。

そして、システムが完成に近づくにつれて、最終段階ではあくせくとシステムのために働いた人間もシステムからは疎ましく思われるかもしれません。そうですよね、システムのバグ(ノイズ)となる最も大きな原因をもたらすのは人間になってしまいますから。


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