見出し画像

地球が初めて回った日

地平線に向かい始めた太陽が
黄色い光を放射していた
雲の下側がマーマレードのように
透き通っていた
逃げてゆく光の筋を追って
私は道から道を伝っていった
北公園と呼ばれる公園が見えてきた時には
光の通路は消えていた
公園に入って光を探すと
百合の木に取り囲まれて
今日最後の光が休息していた
地球が初めて
一日をかけて自分で回り始めた
その日から
人生は始まった

公園で休息する今日最後の光

空がすみれ色に変わる頃
商店街で
魚屋が包丁で夢をさばき始めた
髪を伸ばした芸術家風の男が
寄り添うと書いた札を
財布から出して
夢の切り身を買った
魚屋は受け取った札を
偽物というラベルが貼られた箱に
放り込んでつぶやいた
フン
いつまで使うつもりなんだ
こんな言葉を

真実はどこにもないということは
真実か
リアルなものは何もないと書かれた歌詞には
リアルさがあるか
言葉を信じることができないと
言葉で言うもどかしさを
君は感じたことがあるか

深い藍色をたたえた
海のような空で
星の群島が明滅する頃
風が回転扉から出て行った
光のように影を友にできない
悲しみを抱いて
レンガが欠け落ちた石段の
角を鳴らし
加速する忘却を追って
朝の方へ吹いていった
日時計がまた時刻を示し始める前に
朝に着かねばならない

 (詩集『フンボルトペンギンの決意』第2章「風と光」より)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?