小さな謎

魚の涙を集めた海を
泳いできた
ネモフィラのように青い約束を
かき分け
泳いできた
金属であることを忘れた硬貨が
海の底に沈んでいった
焼けつくような涙から分離した
忘却の成分は
曲がりくねった運河や
小さな庭に広げられた
ビニールプールの底に
沈殿していった

失わなければ成就しない
ささやかな願いを
夜の木立の中に置いてきた
身震いする朝
机の上に置き忘れたコップのように
不意に現れた
ちいさな謎

麓ふもとの造成地に
太古の海が
入り込んでいた
ぬかるんだ土の階段を
光が降りていった
山で溺れた魚たちが
活字の襟をつかんだまま
波打ち際で喘いでいた

やり過ごしてきた
小さな謎を
ひとつ解くことができたなら
魚たちは帰ることができるだろう
青銅の空とともに消えた
太古の海に

　（詩集『月のピラミッド』第2章「異境」より）

月のピラミッド