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仙台幻視行(その2)

2.とある12月の月曜日:

仙台を半日で観光するなら、
「ループル仙台」に乗るのがいいと、
夕べの懇親会で皆が勧めてくれた。

仙台の観光スポットを巡るコースを、
バスが一日中走ってくれるらしい。
20分間隔に運行していて、
好きなバス停で降りて、
好きに観光できて、
好きなバス停で乗ることができる、
乗り降り自由のループバス。
ループルのループはループのループ。

朝の10時過ぎに、
仙台駅西口バスターミナルの16番のりばで、
「ループル仙台」のバスに乗った。

行く場所は決めていた。
仙台城跡。
『青葉城恋唄』でしか知らない青葉城へ、
伊達政宗に会いに行こう。
格別好きというわけではないけれど、
一度は会ってみたいと思っていた。

「右に見えるのが広瀬川です」
バスの運転手がガイドしてくれた。
  ♪ 広瀬川流れる岸辺  想い出は帰らず ♪ 
さとう宗幸が唄っていたあの広瀬川か。

青葉城は石垣だけが残っていた。
あとは石碑と伊達政宗の騎馬像と壮大な幻。
マサムネがいた。
渡辺謙に似ていなかった。
あれは大河ドラマだったか。
本当の顔を誰か知っていたのだろうか。
夏草やつわものどもが夢の跡。
あれは松尾芭蕉だったか。
しかも奥州平泉。
季節まで違う。

マサムネは太陽に向かって馬を駆ろうとしていた。
行きたいところが見つかったのかい?
ここでじっと固まっているのが辛くなったのかい?
馬もそろそろ走らせてやらないと運動不足だ。
私は足がもつれそうになってきた。

遠くの山はうっすら雪を被っていた。
あれは磐梯山ですよと、
教えてくれたひとがいた。
磐梯山が見えるとは夢にも思わなかった。
高校の修学旅行で行ったというのに。
お釜の前で記念写真を撮ったというのに。
忘れ果てていた。
見る間に灰色の雲が磐梯山に近付いてきた。

城跡のフードコートで「はらこ飯」を食べた。
宮城県の名物らしい
鮭とイクラと炊き込みご飯。
親子丼の鮭版。
夕べは飲み過ぎたので、
ミニサイズにした。
おいしかった。
普通サイズにすればよかった。

ついでに「ずんだ餅」も注文した。
枝豆をすり潰して作ったアンコが、
餅を包んでいた。
いや塗りたくっていた。
野趣がたっぷり盛られている。
初めての食感だ。

もう一度城跡を見たくなった。
わずかに残った石垣の向こうに、
葉を落としたけやきと雲が見えた。
城の上から自分の領地を眺めて、
気持ち良かったかい?
マサムネさん。

最後に広瀬通りでバスを降りた。
けやき並木が続いていた。
杜の都に広瀬川に広瀬通り。
 ♪ 広瀬川流れる岸辺  想い出は帰らず ♪ 
歌詞の意味がやっと分かったよ、
さとう宗幸さん。

食べるものは食べたし、
観るものはみたし、
そろそろ神戸に帰るか。

JR仙台駅まで歩いた。
今日は駅で迷わなかった。
ひとつ賢くなった。
迷わず「仙台空港アクセス線」で仙台空港へ。

17:30発伊丹行ANA738便。
飛行機もスタンバイしている。
さらば仙台。
とはならなかった。
飛行機の出発が30遅れるというオチまでついた。
面白かったよ。


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