『スター・ウォーズ 続3部作』の楽しみ方 最後のジェダイ篇(ルークサイド)
2015年から2019年にかけて公開された続3部作について、振り返りつつ私の楽しみ方を紹介したいと思います。
記事は既に映画3部作(および過去の6作)を視聴済みの方に向けた内容になっています。また関連する未翻訳のものを含むスピンオフ作品の内容にも触れています。重大なネタバレを含みますのでご注意ください。
観客がルークとの再会を果たした「エピソード7 フォースの覚醒」から2年後の2017年12月に公開「エピソード8 最後のジェダイ」の楽しみ方です。
本作は続3部作の中で唯一ジョージ・ルーカスが代理人を通して「Beautifully Made.(見事な出来である)」と称賛した作品です。情報量が多いため「レイアサイド」と「ルークサイド」に分けて紹介しています。ぜひあわせて読んでいただけると嬉しいです。
レイの目的
レイは当初、両親の帰りを待つためジャクーに戻ろうとしていましたが、レイアの依頼を受けルークを連れ帰る任務にあたります。動機には自身の中で目覚めた謎の力について「伝説の人物」から制御するための教え・導きが得られるかもしれないという期待が含まれていました。
ルークは「ジェダイは滅ぶべき」としてジェダイとして育てる事を拒絶。
その後、レイの力を察しR2のホログラムを見たルークは「3つのレッスン」を彼女に与えます。
3つのレッスン
1つめのレッスンは「フォースとは何か」です。
ルークはレイに目を閉じさせ、字幕と吹替では「手を伸ばせ」と訳される「reach out」は(フォースに)「心のアンテナを伸ばせ」というような意味で発したと言うのが正しい解釈で、故にレイが単純に手を伸ばした事にルークが呆れてからかう(これがまたルークらしい)のだと思って見て下さい。
その後改めて「reach out with your feelings」(感覚を解き放て/自分を解放しろ)と導き、既にフォース感応者として覚醒しているレイは島の生命を結びつけるフォースと繋がります。
ルークはフォースがジェダイのものではなく「世界に満ち森羅万象のバランスを保つエネルギーである」と説明します。
2つめのレッスンは「ジェダイがなぜ滅び去るべきか」です。
2014年以降の「正史」では、エピソード4の直後からルークが技を磨くため各地に残る「ジェダイの知識」を捜して銀河を巡る様子が描かれました。
銀河共和国が帝国に再編されて以降、ジェダイの記録は抹消されて各地の寺院も帝国軍によって破壊されています。残された数少ない遺物を集め、ルークはジェダイ騎士団の復興を目指します。
エンドアの戦いの後、ルークはヨーダの遺言(「学んだ事を伝えよ、もう1人のスカイウォーカーに…」)に従いレイアを訓練します。しかしレイアは自分がジェダイになると息子が死ぬことを予知してその道を断ち再び新共和国の元老院議員としての立場に身を置きます。
その後ハンとレイアは息子ベンを授かりますが二人は強力なフォース感応者である彼をルークに預けることに。そしてルークはやはりヨーダの言葉通りスカイウォーカーの血を引く甥に力の継承を試みますが、その存在はスノークにも目をつけられていたのです。
ベンを弟子に迎えて9年、肥大化する闇に気付いたルークが彼の内面をのぞき込み、その時に起きた出来事が劇中3つの形で回想されます。
「説得を試みたが逆に襲われた」はルークの後悔と恥から出た虚偽、一方のカイロ・レンの言葉は事実ですが「ルークがベンの寝込みを襲うような回想」は彼の主観的認識であって歪んだ記憶です。
彼は幼い頃よりその血統と備わった強い力から周囲の人間からは畏怖される存在でした。ハンとレイアには手に負えず見放され、ついには慕っていた叔父のルークにも、というネガティブな感情による先入観が認識を曇らせたとも考えられます。
余談ですが「フォースの覚醒」公開直後、コメディバラエティ番組サタデー・ナイト・ライブで「アンダーカバー・ボス 社長潜入調査」のパロディが放送されました。カイロ・レンが見習いレーダー技師マットに扮して基地内の問題点を探るため覆面調査します。
当時はベイダーに代わる新たなヴィランをなぜこのような形で茶化すのか疑問でしたが、実は周囲に恐れられ孤独で哀れなベン・ソロが忠実にデフォルメされていると感じるようになりました。デイブ・フィローニ製作総指揮のアニメ「レジスタンス」ではこのレーダー技師のコスチュームで主人公が敵基地に潜入するオマージュもあり、協力しているので当然ですがルーカスフィルムの製作者もこのパロディに肯定的であることが窺えます。
小説版においては「真実」というチャプター名で語られる「ルークの証言②」が事実であり、ベイダーが妹の事を持ち出した時のように「愛する者を守りたい」という本能(=それこそがルークでありスカイウォーカーらしさであり、本能に従えという教えはクワイ=ガン・ジンから継がれたものなのですが何という悲劇)が衝動的に光刃を灯らせ、ベンに失望を与えてしまったというのが真相です。
ヴィジュアル・ディクショナリーにはルークの住む島は「銀河の縮図」であると説明があります。太古のジェダイが聖域を設置したことに相克する形で暗黒面の領域が生じているように、ルークはジェダイ・オーダーの存在こそが銀河にフォース暗黒面の信奉者の台頭を招いたと考え、故に同じ過ちをしてしまった自分も含めてジェダイは滅ぶべきと達観しています。
世界に光明面と暗黒面を司る存在が現れ、そのバランスが高次の存在である宇宙のフォース(とその意志を生命に媒介する微生物ミディ=クロリアン)によってコントロールされているという世界観はルーカスの続3部作構想とも共通する部分です。
2つめのレッスンの直後、レイはケアテイカー(古来より寺院を訪れるジェダイの生活の世話をしてきた原住民)の村に向かう船団を見つけます。「月に一度やってきて、ケアテイカーの村を襲い、略奪する」というルークの言葉にレイは驚き静止も聞かず村へと向かいます。
この場面は映画ではカットされていますが未公開シーン「島を駆け下りて」として公開されています。(ディズニープラスでは特典映像に含まれています)
ところが実は襲撃者の話はルークの冗談であり村では賑やかな宴が催されています。(このあたりもまたルークらしい)
ルークは無心で救おうとしたレイの本能的な行動に対して「それこそがレジスタンスが求めているのものであり老いた信仰のぬけがらではない」と説きます。これが3つめのレッスンです。レッスンは『「伝説」に囚われているレイに対して現実を教える』というものでした。オーディオコメンタリーで字幕は監督の言葉になっていますが、ぜひ未公開シーンもあわせて見てみて下さい。
「フォースの覚醒」で投げかけたルークがなぜ隠れたのかという謎に対する回答になっています。
ルークの過ち
ジェダイの継承者として騎士団の再興を目指したルークが、半生をかけて集めた僅かな「ジェダイの知識」は生存者バイアスのようなものでしかなく、彼に必要だった情報は無かったのだろうと推測します。
公式設定(Topps社のトレーディングカード記載の情報)ではジェダイ寺院の記録は「エピソード3」で帝国が樹立したあと帝国保安局に抹消されたほか、ジェダイの凋落の始まりが描かれた最新のドラマシリーズ「アコライト」によればそもそも共和国末期のジェダイ・オーダーでは失敗や不都合な事は隠され記録されないことも・・・という描写もありました。
アニメ作品ではジェダイ・オーダーが掟(「過去」から積み重ねられた知識や予言)に囚われ機能不全に陥っている様も描かれてきましたが、そうした歴史の事実をルークは知る術もありませんでした。
ルークは自らの失敗に絶望し、フォースとの繋がりを断ってオク=トーに隠遁していたのでした。
こうした30年後のルークの人物造型はメイキング本「アート・オブ・スター・ウォーズ」シリーズによれば、ライアン・ジョンソンが監督に決まる前からデイブ・フィローニらIPDGによって検討が行われていました。個人的に非常に練られた設定だと思います。
IPDGと検討されていたルーク像については序文を参考下さい。
またレイア篇で紹介した「Star Wars: Fascinating Facts」によればルークの最期についても原作者ルーカスによるあらすじに記されており、映画の物語はこれらを尊重して作られたものであることも分かります。「レイア篇」で紹介した通り、30年後のルークの設定についてはジョージ・ルーカスの承認を得た上で進められてもいる事もこの本で明らかになっています。
小説版のプロローグはルークのIFの人生で始まります。砂漠の星から旅立つことなく水分農場主として帝国とジャバ・ザ・ハットの支配に甘んじながら、しかし“その選択”をした過去に囚われつつ余生を過ごす様が描かれます。
結局それは夢なのですが現実のルークも過去に囚われており、そしてあの時のようにまた助けを求める姫の遣いが彼の前に現れました。
レイの振る舞いはかつてのルーク・スカイウォーカー的でもあり、彼女との交流はルークにとっては若い自分自身との対話と言えるかもしれません。
フィンとローズのカントバイトのシーンを挟んだ後、ルークはレイに行わせたように何年かぶりにフォースに自らを解放します。直後、遙か彼方で助けを求めるレイアの声を感知します。小説ではその心情が詳しく語られているのですが、3つのレッスンを通じてルーク自身も自らの過ちに気づいたという場面です。フォースの導きでレイは自覚無くその役目を果たしました。
ルークが生涯を掛けて集めたジェダイの知識=過去を手放そうと決心したときかつての師が現れ重要な教えを与えます。
公開順が前後しますが2022年配信のドラマシリーズ「オビ=ワン・ケノービ」でもオビ=ワンが弟子アナキンの育成に失敗したことに苦悩し、予言(未来)や掟(過去)に囚われ葛藤しながら隠遁する姿が描かれました。
「最後のジェダイ」のルーク編と同じモチーフの作品であり、重ねて見るとドラマもまた別の視点で楽しむ事ができます。「オビ=ワン・ケノービ」も賛否ある作品の印象ですがジョージ・ルーカスの支持と賞賛を受けています。
そしてルークもオビ=ワンと同じ境地に至り、希望をつなぐための自分の役割を悟ります。
このドラマにおけるオビ=ワンとルークの違いは、一つはルークはベンを家族と引き離してしまったこと。オビ=ワンも当初はルークを訓練するつもりでしたが最後は育ての親のラーズ夫妻に委ねます。
もう一つは『アナキンは死に「ダース」となった』と割り切ったオビ=ワンでしたが、一方ルークはレイとの対話で考えを改めていて彼の最期の台詞に違いがよく表れていますので注目してみて下さい。
継承
ディズニー傘下でのスター・ウォーズ作品のリリースは今年で10年を迎えます。振り返るとこれまで多くの作品で「親子」や「師弟」という設定を用いて「継承」をテーマとしているように感じられ、特に続3部作は「反乱者たち」とともにその先駆けだったと思います。
「最後のジェダイ」では専制政治と軍国主義による支配から銀河の民を救うべくレイアはその希望となるレジスタンスを導きます。ルークは強大な戦力に追い詰められた窮地のレイアたちをたった1人で(攻撃ではない究極の技を駆使して)救い、再び語り継がれる伝説となります。
彼らの生き様を目の当たりにし、その意志を受け継いだ次世代のヒーローたちの戦いは最終局面へ向かいます。
映画中盤に、先入観から宇宙船だと思ったものがアイロンだったというシーンがありますが、単に某パロディ映画のオマージュやギャグではなくこの映画のテーマ=思考のエラーやバイアスを象徴する演出だなと思っています。
ルークの活躍でレジスタンスの大攻勢が見られるものと期待し残念に感じた人も多かったと思います。私も初見時は受け止められずそうした気持ちが強かったのですが、その期待こそがレジスタンスと同じ先入観からのものだったわけです。見返すたび発見があり、調べるほどに「ジェダイの帰還」から30年後のレイアとルークの運命と次世代への継承を丁寧に描いていると考えるようになりました。
正直、ジョージ・ルーカスのスター・ウォーズには及ばないとは感じつつも私の評価は当初から逆転していて続3部作のなかでいまは最も好きな作品です。
補足
この映画、分かりにくい部分が本当に多いのですがホルド提督の決死の攻撃についてだけ解説します。
これについてはビジュアル表現が優先されたものだろうと推測します。
小説とビジュアル・ディクショナリーで解説される上図の設定はそれにあわせて作られたものだと考えられますが「奇跡的に条件が重なって成しえたもの」であり戦術として用いられる事が難しかったという説明としては良く出来ていると思っています。
ちなみに安全装置解除を含むハイパースペース・ジャンプの衝突コース設定は2009年の「クローン・ウォーズ」シーズン1のマレボランス編でアナキンが敵艦に侵入した際にも行っています。
続3部作全体に言えることですが、細かい設定や経緯を小説やコミック、設定集などに分散したことで映画単体では所々説明不足に陥っているように思います。クロスメディア展開の施策のせいで長年の映画作品のファンほど先入観から見方を誤ってしまいがちな作品で、それゆえ過激で否定的なレビューが多い印象の本作ですが、個人的には的外れだと思う批判レビューがほとんどです。影響されて駄作と誤解されている方々に少しでもこの作品の良い部分が伝われば幸いです。
最後にもう2冊お薦めの関連書籍を紹介します。
「ルーク・スカイウォーカーの都市伝説」はルークの英雄的な行いを描くオムニバスですが、タイトル通りで30年間で語り継がれるうちに尾ひれ背びれがついたと思われる(しかし真実かもしれない)奇妙な6つのエピソードとなっています。レイやレジスタンスの人々など劇中の続3部作時代の銀河の人々が伝説の人物ルーク・スカイウォーカーに抱いていたイメージを共有できる一冊となっています。
もう一冊は「スター・ウォーズ タイムライン」です。「正史」の作品を集約・解説したビジュアル年表図鑑です。時系列順に未翻訳のものを含む小説やコミックの内容がダイジェスト的に掲載されています。ちょっと価格が高いのですがその価値が充分にある一冊です。こうした書籍は売れないと後が続きませんのでファンの方はぜひお買い求めのうえ出版社を応援願います。
「スカイウォーカーの夜明け」編に続きます。カイロ・レンとレイについてはそちらで重点的に見所を紹介したいと思います。