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【ストレス脳】 人類みな、狩猟採集民 (読書メモ)

アンデシュ・ハンセンさんの「ストレス脳」

「スマホ脳」で話題となった方です。
この「ストレス脳」も平積みとなっていました。

タイトルが「ストレス脳」ということで、
「現代人にはストレスが多すぎる!!!」
という内容かと想像しましたが、だいぶ違いました。

なぜ、現代人がうつや不安に悩むのか?
どうしたら、うつのリスクを下げられるのか?
これらを、生物学的な見地から読み解いている本でした。

ちなみに、原題は「Depphjärnan(うつ状態にある脳)」とのことです。
(私には、原題の方がしっくり来ました。)

脳は「狩猟採集時代」を生きている

本書で面白い表現がなされていました。

フェイスブックをひらけば、プロフィール欄に教師、看護師、(中略)、シェフ、医師といった職業が並んでいる。
生物学的には、全員「狩猟採集民」と書くべきだ。

p.25

生物の進化による変化の過程には、何万年、何十万年とかかります。
それは人間も同様であり、人間の身体は「狩猟採集時代」から変化していないのです。

当然「身体」には「脳」も含まれます。
つまり、私たちの「脳」は「狩猟採集時代」を生きているのです。

私たちは、脳の驚くべき「柔軟性」「変化への対応力」を知っているので、脳だけは特別なんじゃないかと考えてしまいますよね。
しかし、脳も例外ではない、ということなんですね。

うつは、「正常な」免疫機能

人類の歴史において、「感染症」は常に脅威でした。
そして、人は感染症に対して強い防御メカニズムを獲得しました。

狩猟採集時代の感染症は、怪我の傷からバイ菌が入ることによるものが多かったようです。その結果、上述の防御メカニズムは、怪我をしないように(当然怪我をした場合にも)機能するように発達したと考えられます。
それは、どのような機能なのでしょうか?

実は、その正体が「ストレス」だというのです。

怪我のリスクが高まると、人はストレスを感じ、それをトリガーとして免疫機能が活発になります。(免疫機能はエネルギーを要するため、常にオンにはできず、ストレスがそのスイッチの役割を果たしているという訳です。)

そして、免疫機能がオンになった結果、
脳は、怪我をしないように、人の行動を抑制します。
それが、うつ状態、なのです。

まとめると、以下のようになります。

  1. ストレスを感じる

  2. 「怪我リスク高」という信号が身体に送られる

  3.  免疫機能のギアが入る

  4. 脳が行動を抑制する、つまり、うつ状態になる

現代社会では、「ストレス」と「怪我のリスク」は結びつかない場合が多いですし、少しの怪我であれば治療が可能なため、そもそも然程問題にはなりません。しかし、脳は狩猟採集時代から変わっていないため、当時と同じように機能してしまっている、という訳なんですね。

このことから言えることは、「うつ」は、
脳に異常がある訳でも壊れてしまった訳でもなく、
むしろ正常に動作しているからこその結果
ということです。

(補足)著者は、うつのメカニズムが複雑であることを度々言及しています。つまり、ここで紹介した免疫系の働きとしてだけでなく、その他にも発生理由が存在するということです。ただ、生物学的側面は認識されていない、もしくは無視される場合も多いため、特に強調して伝えたい、とのことのようです。

「人との関わり」と「運動」

うつが正常な機能だとしたら、うつを防ぐ手立てはないのでしょうか?
人間誰しも「うつにはなりたくない!」と思いますよね。

本書では、うつのリスクを軽減するものを2つ挙げています。
それが「人との関わり」と「運動」です。

まず、「人との関わり」です。

オーストラリアで行われた研究は、うつの兆候にある人が社交グループに所属することで、うつになる可能性が24%軽減することを示しました。さらに、所属するグループの数が多いほどその効果が大きかったのです。

この研究では所属するグループの数が多いほど良いという結果でしたが、本書によると、「浅く広く」より「深く狭く」の付き合いの方が大切とのことです。一緒にいてリラックスできる人との関係が重要のようです。

続いて、「運動」です。

2019年に発表された論文によると、毎日じっと座っている代わりに15分間ジョギングをすると、うつになる確率が26%低下するとのことです。1時間の散歩も、同じだけうつのリスクを低下させるそうです。

運動がうつを防ぐメカニズムは複数あるようです。その一つが、免疫系と関係があります。
運動をすると、当然ながらエネルギーが消費されます。その結果、免疫系で使用できるエネルギーが少なくなるため、免疫機能が抑制されます。これにより、上述の、免疫系の働きとしてのうつ症状を抑えてくれるということです。

おわりに

本書の言葉で、ハッとさせられたのが次の言葉です。

私たちの身体は生き延びて子孫を残すために進化したのであり、健康に生きるためではない。脳も同じ理由で進化したのであり、幸福を感じるためではない。

p.24

インターネットやSNSが発達した現代社会では、自分を、世界中の他人と簡単に比較できるようになりました。その結果、

「皆はキラキラして楽しそうだし幸せそう。
 一方、自分は…。自分には何か欠陥があるのかもしれない…。」

こんな風に感じたことがある人も多いのではないかと思います。

本書の、先ほど紹介した言葉は、ある意味では厳しい言葉です。
人がいくら幸せになりたいと願っても、人はそんな風には出来ていない、と言っている訳ですから。

しかし、「自分には欠陥があるのかも…」と思って自分を責めている人にとっては、とても優しく温かい言葉にも聞こえるんじゃないのかな…と、そんなことを思いました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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