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EP031. 瞳がキラキラだね

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「こんなところにメリーゴーランドなんて珍しいね。」

「ほんとだねー。移動遊園地なのかな?」

「イルミイベントで来てるみたいだよ。」

「そうなんだねー。イルミがキレイだな。」

「うん、光を集めたみたいだね。」

「ほんと、夜のメリーゴーランドはオルゴールみたい。」

「乗ってみる?」

「ううん。私ね、メリーゴーランドは観るのが大好きなんだ。」

「乗るんじゃなくて?」

「そう、観るのが好きなの。」

「じゃぁ、少し観ていく?ちょうどベンチもあるし。」

「いいね、そうしよっ!」

私はメリーゴーランドが大好き。それも観るのが。
子供の頃、遊園地に連れて行くとメリーゴーランドの前から離れなかったって、お父さんがお酒を飲んだときによく言ってる。それほど好きだったみたい。
一人で放っておけないからってお母さんが離れず一緒にいてくれて、ずーっとお話をしてくれた。よく覚えてる。今もはっきりと。

「なぜ乗るより観る方が好きなの?」

「最初はね、キレイに装飾されたお馬さんや馬車がクルクル回るのが良かったの。乗っちゃうと全体がよく観られないから、外から観る方が良かったんだ。」

「なるほどねー。でも、『最初』ってどういうこと?」

「実はね、私が4歳の時のことなんだけど…。」

私が4歳の時にお母さんが他界した。
とっても悲しかったなぁー。
でも、それ以上に…、どうしようもなく寂しかった。
悲しいより寂しかった。
お母さんに会えないのって、こんなに寂しいんだって思い知らされたよ。
私、毎日泣いてたもんな。

あれは、塞ぎ込む私を元気付けようと、お父さんが遊園地へ連れて行ってくれたときのことだったな。私が喜ぶだろうとメリーゴーランドの前に行ったとき、お母さんのこと思い出しちゃって「わー」って私は急に泣き出しちゃった。メリーゴーランドをいつも一緒に観てたから。

それからは、お母さんに会いたくなったらメリーゴーランドをおねだりしてたな。
お母さんに会えるような気がして、もっともっと、乗るより観る方が好きになったんだ。

「そうだったんだ。思い出のメリーゴーランドなんだね。」

「そう。お父さんが忙しくなってからは遊園地に行けてなかったから、メリーゴーランドを観るのは久しぶり。嬉しいなぁ。」

「もしかしたらお母さんが呼んでくれたのかもね。」

「そうね。」

お母さんが懐かしい。
会いたいなー。お母さんに会いたいなー。
こんなにキラキラしたメリーゴーランド、お母さんと一緒に観たかったな。
もっと一緒にいたかったな。
もっと一杯話したかったな。たくさんたくさん、もう話したいことだらけだよ。
会いたい…、お母さん。
あー、だめだ。涙が湧いてくる。泣いちゃう。隣の彼にバレちゃうよ。

彼の方を見るとじっと私の目を見てる。
バレちゃった?やばいよ、誤魔化さなきゃ。

「どうしたの?なにかおかしい?」

すぐそばで目を見られるとこんなにドキドキするんだ。

「瞳がキラキラだね。」

私の目がキラキラ?
涙目にメリーゴーランドの光が反射してるのかも。

「えぇー、そっちこそ。キレイな目だよ。」

照れ隠しだったけど、大胆なこと言っちゃった。

でもなんだろ、これって。
「瞳がキラキラ」って言葉はもちろん嬉しいんだけど、何かがいつもと違う。
キューって感じ。
すぐに終わって欲しいような、いつまでも続いて欲しいような。
ジェットコースターで急降下するみたい。

「褒め合ってても仕方ないね。」

「そうだね。褒め合っててもね。ハハハ。」

ちょっとハグしたいかも。
ううん、今すぐハグしたい!
でもまだ我慢しておこうかな。自分からより、ハグされる方が嬉しいもんね。

ところで彼はどう思ってるんだろ。
彼も同じようにキューってなってるのかな。
あれっ、なぜ私こんなこと考えてるの?
彼は友だちだったはずなんだけど…。

まさかこれって…。
きっとメリーゴーランドの奇蹟だ!
あのキラキラが魔法をかけるのね。

やっぱりメリーゴーランドを観るのが好き。
大好き。
彼と観るメリーゴーランドも悪くないな。
もう少し…、このまま二人で観ていたい…かな。

「ねぇ、このメリーゴーランド、もう少し観ていかない?」

え?彼からこんなこと言うなんて、私の心の声、彼に聞こえてないよね?

「うん。」

やっぱりもう少し、このまま二人で観ていたいな。

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