EP012. 無理しないでぼくを頼っていいんだよ
「ちゃんとママと一緒に100まで数えるのよ。いい?」
お風呂は息子と一緒に入る。
湯船の中で数を数えるのが私たちの日課だ。
平日の日中は仕事に出ているので、息子との時間はなかなか持てない。
それだけにお風呂の時間はとっても貴重。
今日一日の出来事とか、今度の休みにはどこに行きたいとか、何をしたいとか、そんな話をしながら息子とのコミュニケーションを楽しむ。
「あれ?また少し背が伸びたかなー?すごいねー!」
息子の成長を確認できるのもこの時間だ。
「ねぇママ。」
「なぁに?」
息子はよく見ている。私が思っている以上に。
色んな物事を観察していて、よくそんな事に気が付くなと思うようなことを言うことがある。
この前もそうだった。
「ママって『ねぇ』って言うときいつも鼻が膨らむね。なぜそんな風になるの?」
私のクセを見抜いている。
実は私、「ねぇ」と言うとき必ず鼻が膨らむ。なぜかは分からないけど、両親に言わせると物心ついたころからそうだったらしい。しかし、このクセは今まで親以外に言われたことはない。どれだけ親しくなっても気付かれていない。それなのに、この子は気付いている。
この子は天才だ。将来は何かすごい発見をしてくれるはずだ。ノーベル賞も夢ではない。
空想の中で「親ばか」が爆発しだした。
そんな息子が、今日はこんな事を言い出した。
「ママはお仕事から帰って来た時、いつも何でも『ママがやるからいいよ。そのままにしておいてね。』っていうでしょ?疲れて帰ってきてるのに。」
私は何でも自分でやってしまうタイプ。人に頼むのは上手くない。頼るのが苦手だ。それに、自分でやれば指示したり説明する必要がないし、誰かに頼むより結果的に早く終わる。仕事でもそうで、人に頼めなくて自分一人で抱え込むことが多く、結局大変な思いをするんだけどなかなか直せない。
「そうね。それがどうかしたの?」
すると、息子は私に向かって大きな声で、とっても嬉しそうにこんなことを言ってきた。
「無理しないでボクを頼っていいんだよ!」
耳を疑った。
幼い我が子が、私を気遣って「頼れ」と言っている。
「ボクだって色んな事ができるんだからね。お願いごとがあったら、ちゃんとボクに言うんだよ。」
すごく自慢げに言う息子。
いつの間にこんなことが言えるようになったんだろう。
あの甘えん坊の息子が、いつの間にこんなに人を思いやれるようになったんだろう。
「ありがとうね!」
気付かない間にお兄ちゃんになっていた息子に驚きを覚えながらも、嬉しさで胸が一杯になる。ぎゅっと息子を抱きしめて、何度もキスをした。
「本当にすごいね!もうお兄ちゃんだね。これからは一杯お手伝いしてもらうね。」
そう言いながら、息子との時間を十分に取れていないことを悔やんだ。
「もう少し仕事の段取りを考えなきゃね。それには人に仕事を任せられるようにならないと。」
人を頼れない私は、どうやら息子に「人に頼るきっかけ」をもらったようだ。
あくる日から息子は、何かと理由を付けては自分からお手伝いをしてくれている。
今日もこの小さなお兄ちゃんに助けられている。
私がこの子を産めたこと。
私の息子としてこの子が生まれてきてくれたこと。
心から感謝している。
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