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EP022. やっぱりね、君もやればできると思ってたよ

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「すみません…。気を付けます。」

今日も失敗した。
先輩に叱られない日はない。
十分注意しているのに、なぜかミスをしてしまう。

「ほんと、なんでだろう。頭では分かっているのに。気付いたらミスしてる…。」

嫌になるくらい不注意のようだ。
分からないでミスしているならまだ対処はできるかも知れないけど、分かっていてミスしてしまうからタチが悪い。

以前はそうでもなかったのに、この部署に配属されて以来ずっとミスが続いている。ミスは自分の責任。でも毎日叱られていると、叱る先輩のことも嫌いになってしまいそうだ。これは好ましくない。それに、叱っている先輩も私を叱るのはもう飽き飽きだろう。

「どうすればミスしないで済むんだろう。」

私がミスをする理由の分析が必要だと思った。
分析して原因を突き止めて、一つ一つ取り除くしかない。

まずは今まで叱られたことを書き出してみよう。

・お客様の名前を間違った。
・プレゼンの日付と曜日が合っていなかった。
・印刷した書類の順番が間違っていた。
・期限を勘違いして、遅い期限の仕事を先にしていた。
・資料で語句が統一されていなかった。
・指示されたグラフと違うタイプのグラフで資料化してしまった。

単純ミスや勘違いが多いことがよく分かる。

・言われたことだけをしている。
・提案力がない。
・何でも「OK」と言ってしまう。
・他部門に調整しに行くとなかなか帰ってこない。

んー、これらはミスではないな。

「やっぱり私は圧倒的に単純ミスが多いみたい。」

単純ミスはチェックの強化で解消できると、以前読んだ本に書かれていたことを思い出した。

「チェック強化ならチェックリストが便利よね!」

とにかくミスしそうなところをチェックリストにして、仕事を終える時にチェックしてみよう。そう思った私は早速リスト作成にかかった。洗い出すとすごい、チェック項目は100を超えた。

「ショックだよ。私ってこんなにチェックできてなかったのー。」

驚愕の事実といえば良いだろうか。不注意にもほどがある。
情けない感情でヘコむと同時に、いつも叱らせていた先輩への申し訳ない感情も湧き出してきた。

「これで明日からはチェックを徹底するんだから!」

翌日から仕事の提出前には必ずチェックリストを使うことにした。
チェックには時間がかかっても、叱られてやり直すことと比べたらどうっとことない。余程のことをしなければ何をしても改善になる。

朝から始めた。仕事を1件終えては、しっかりチェックして先輩に提出する。
今日は全ての仕事でチェックを徹底できた。
いつもよりやり遂げた感が高くて、とても充実した気分だった。

終業時間の少し前に先輩に呼ばれた。
不安で一杯になりながら先輩の前に立った。

「今日の仕事だけど…。」

「チェック頑張ったのにやっぱりミスしちゃったんだ…。」と、心の中でため息をついた。

「今日はノーミスだったね!完璧。やっぱりね、君もやればできると思ってたよ。しっかりできるようになってくれてありがとうね!」

「えー!そうなんですか、ありがとうございます!」

「何か工夫したの?」

「チェックリストを作ってみたんです…。」

「そっかぁ、努力してくれたんだね。イイね!これからもその調子でね。」

今日は完璧だった。
満足感で心は晴れ晴れしていた。

さぁ帰ろうとオフィスの扉に手を掛けたとき、誰かが私の名前を言っているのが聞こえた。休憩用のカフェスペースからだ。聞き耳を立てるのは悪いと思いながらも、その声に集中してみた。

「今日ね、とっても良いことがあってね…。」

この声は先輩だ!

「実は彼女、今日はノーミスだったんだよ。嬉しかったなぁ。ほんと、諦めずに指導してきて良かった。答えは自分で見つけて欲しかったから少し時間はかかったけど、ちゃんと見つけてくれたよ。絶対大丈夫だとは思っていたけど、いやぁ、良かったぁ。彼女ならできると思ってたんだ。」

先輩が誰かに私のことを話している。それも嬉しかったと自慢げに!

「お疲れさまでした!…、お疲れ様でした!…。」

この幸福感を、この世の全ての人と分かち合いたい。
そんな気持ちを挨拶に乗せて、知ってる人にも、知らない人にも、すれ違う人全員に満面の笑みを振る舞いビルを後にした。

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