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EP017. 先輩のやさしさに癒されました

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晴れた日には気分転換に屋上へ行く。
遠くを見渡せる屋上にいると、私の心をもやもやさせる考えがちっぽけに感じて、嫌なことはどこかへ消えていく。まるで屋上を抜ける風が吹き消すように。

今日もまた気分を変えようと屋上まで上がってきた。

背伸びをしながらぐるっと見渡すと、ベンチに腰をかけて、背中を丸めてうなだれている男性がいる。よく見ると私が研修を担当した後輩くんだった。

「あれ?屋上にいるなんて珍しいわね。どうかしたの?」

「あぁ、先輩…。」

やけに元気がない。
そう言えば数日前に、上司にこっぴどく怒られている彼を見かけたことを思い出した。

「何かあったの?私が聞いてあげるから言ってみなさい。」

彼は上司に怒られたことで思い悩んでいたようだった。
私に告げ口しているようで気が引けると言いいながらも、怒られたことが不条理で納得できないことを話してくれた。

「詳しく話してみて。」

私が促すと、堰を切ったように彼の不満が爆発した。

彼の話はこうだった。
上司の指示通りにきっちり仕事をこなした。すると、その仕事について他部署からクレームが入った。よく調べてみると上司の指示が間違っていたことが分かった。でも上司は彼のミスだということにして、クレームしてきた部署前でこれ見よがしに彼を叱った。

「なるほどね。」

彼の上司は私と同期。悪い人ではないんだけど他人に責任をなすりつける癖がある。ちょっと面倒な性格。

「あなたは悪くないわよ。気にすることなんてない。」

「でも先輩、あれじゃ僕の評判はガタ落ちです。あんな叱られ方をしたら、あの部署の人たちからはもう信用されないですよ。」

「あなたはそんな仕事しかしてこなかったの?」

彼の研修中、私は一貫して相手を尊重した仕事をするように指導した。何か問題が起こっても、何か問題を起こしても、必ず誠意をもって対処すること。たとえ相手に問題があったとしても必ず事情がある。だから相手を尊重する姿勢をいつも忘れないようにと。
彼は優秀で、研修中から私が教えた通りにしっかり実践できていた。そんな彼がちょっとのミスで信用を落とすはずがない。それに彼の上司の評判は有名だ。仮に周囲が事情を知らなかったとしても、彼が濡れ衣を着せられていることにきっと気付いているだろう。
それだけで何も心配する必要がないことは明白だった。

「あなたが今まで仕事をしっかりしてきた自信があるなら何も心配することはないわよ。どうなの、その辺。」

「僕は先輩の教え通り、常に相手を尊重して仕事をして来ました。それだけは自信があります。」

「だったら何も心配することないじゃない。今までのあなたの姿勢はみんなが知ってる。だから今回のことは気にしないで、なかったことのように放っておきなさい。あなたは大丈夫。」

「先輩…、ありがとうございます。本当に、本当にありがとうございます…。」

「何言ってるのよ。水臭い。礼なんて要らないわよ。」

「先輩のやさしさに癒されました。なんか、僕の努力が報われた気がします。」

「ほんと、大袈裟ね。」

「いやぁ、先輩。やっぱり僕には先輩が必要です。」

「何調子に乗ってんの。いいから仕事に戻りなさい。」

少し話し込んでいたので、早く戻るよう急かした。

「これからもよろしくお願いします。」

彼はペコっと頭をさげ、早足で職場へと戻っていった。

「調子いいんだから。」

私にとっては何も特別なことではない、当たり前のことだった。彼が気にする必要がないと思ったから「気にすることない」と伝えただけ。それだけのことをそんなにありがたがられても困るし、そもそも照れくさい。
ただそれで彼が少しでも楽になれたのなら、心が静まったのなら、これからはもう少し意識して伝えてもいいかなと思えた。

「私に癒された…、私が必要…、か。」

可愛い後輩にそんな風に言われるのは悪くない。

「私を必要としてくれてありがとうね。」

自然と口角が上がっているのが分かる。
これで今日の残りも頑張れそうだ。

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