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EP037. 私らは末広がりの人生を歩くんやで

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「総務のあの子、寿やって。」

「えぇー、あの子まで…。あの子には勝てると思ってたのに…。」

「あと何人残ってた?」

「もう5人切ったんちゃう。」

「マジでー…。はぁ、私、どうなるんやろ。」

「もう、そんなに気ぃ落とさんときやぁ。」

この会社に入社して20年。
周りの女子たちには次々と彼氏ができたり結婚していくなか、私には全く浮いた話がなかった。
同期入社の女子は40人もいたのに。
気が付くと残り5名を切っているという事実。

「また一人売れてった。」

「人にはタイミングがあるんやし、人と比べても仕方ないんよ。」

「そう言っても…。なんで私はこんなにツイてへんのよ。」

「そんなん言わんとってや。同期の私もあんたと同じやねんから。それにな、どんだけ気ぃ落としても彼はでけへんよ。考えるだけ損。損やで損。」

私は入社以来ずっと仕事を頑張ってきた。同期の彼女もそうだ。
プライベートは二の次。
とにかく仕事優先。
技術職だから仕方ない。
納期があるから自由はない。
誰に言われた訳ではないけど、自分で自分を言い聞かせてきた。

「仕事になんて打ち込むんじゃなかったよ。」

入社した頃、執務の女子たちが楽しそうに定時で帰って行くのが羨ましかった。
声をかけると合コンだと言う。

私も合コンに参加してみたかった。

「今度は私も誘ってね。」

「もちろん誘うよー。じゃあねー。お疲れ様ー。」

それからは私も誘ってくれるようになった。
でも、私がいつも「仕事でいけない」と断るから、いつからかお声が掛からなくなった。
寂しいけど、彼女たちは悪くない。私の自業自得。
気が付くといい歳になっていた。

懐かしくも切ない思い出だ。

せめて一度ぐらいは合コンに参加しとくんだった。
そんな後悔が今になってまた押し寄せてくる。と言うか、最近は思い出しては後悔してばかり。

「無理してでも参加しといたら良かったわ。」

「何に?」

「コンパ。」

「何言うてんの、今更。そんなん言うてもしゃあないやろ。」

「しゃあないやろって、しゃあないやん。思い出すねんから。私の人生なんかなぁ、もう終わりや。もう死ぬしかないんや。私なんか生きてても価値ない。」

鼻声になる。
いい歳でも心はいつでも乙女だ。恋の話に涙はつきもの(と言いながらも恋はしていない)。

「あのな、あんたはいっつも大袈裟やねん。浮いた話がないだけで、なんで死ななあかんのよ。ほんま呆れるわ。」

「そんなん言うてもな、悲しいもんは悲しいやん。分かるやろ?」

「人生は最後にどう思うかで価値が決まるんやで。死ぬまで答えなんかわからん。私らは末広がりの人生を歩くんやで!私らの華はこれからや!」

彼女が叫ぶ。

「あんたは何でそんなに前向きなん。信じられへんわ。」

「後ろ見てメソメソ生きてたいんやったら後ろ見とき。一人でずっとそこにおったらえぇよ。私は前見て生きてたいから前向きや。私の人生信じてるし。絶対うまくいくし。ほんま分かってる?私らは末広がりの人生を歩くんやで!」

そう聞かされると、なんだかそれが真実のような気がしてきた。

「そや、私らは末広がりや!」

私も絶叫する。

「自分が信じひんで誰が信じてくれるん?信じてこそ現実のものになるんや!」

「私らは絶対うまくいったる!なめとったらあかんで!」

「そやそや!なめとったらいてまうどー!」

私たちの真剣ながらふざけた叫び声が屋上にこだまする。

顔を見合わせて大笑いする。

「なめとったらいてまうど」なんて言葉聞いたの久しぶりだな。

でもすっきりした。
沈んでいた自分が馬鹿らしかった。
彼女がいてくれて良かった。彼女がいなかったら、いつかここから飛び降りていた…、かも知れない。いや、そこまではないか。

「はぁ…。あんたは私の人生の恩人やな。」

「何言うてんの。ほんまあんたは大袈裟やな。そやからモテへんねん。」

「もう、きっついわ。」

「えぇから私に任せとき!」

何を任せろと言うのか。太鼓腹を叩いて言う彼女に説得力はない。

「任せろって、どの口が言うてんの!」

二人でまた大笑いする。
色恋沙汰が遠くても、私たちは笑っていられる。
まぁ、これもアリかな。末広がりだしね。

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