【Sandoll×イワタ】韓国訪問記 PART.2 ハングルフォントデザイン編
안녕하세요?
今回はいよいよハングルフォントやそのデザインのコツについてご紹介します!独立した記事なので2から読み始めても大丈夫ですよ。
デザイン部はお互いにハングル・和文の講義とワークショップを行いました。ここではハングルをメインに和文との違いにも触れながら、学んだことをお裾分けできればと思います。
前半はハングルフォントの基本情報、後半はワークショップの様子をまとめています。
今回の訪問に当たり、韓国マナーとハングルの基礎について通訳のキム・ヘギョンさんに事前勉強会をしていただきました。パワフルで頼れる素敵な언니(お姉さま)で、専門用語や筆遣いなどの細かな表現も適切に伝えていただきました!
Sandoll社から教わったことと合わせ、この勉強会で学んだことも織り交ぜています。
1.ハングルの構造
ハングルは子音と母音の組み合わせでできており、配置のパターンは6つあります。
発音は子音→母音→パッチムの順で繋げるように読みます。
たとえば「ハングル」であれば、単体のンに当たる文字はないので「HA+N= 한」、グとルは分けずに「グㇽ」と一度に発音するので「GU+L= 글」となります。
2.ハングルフォントの文字セット
一般的なデジタルフォントに必要なハングルは11,172文字です。
(このほかラテンや記号類なども必要)
そして代表的な文字セット(規格)は2つあります。
規格の選択は、日本なら「タイトル向き」「辞書も組める」など用途に合わせることが多いですが、ハングルで用途はあまり関係ないそうです。強いて言えば、若者がスラングなどで特殊な文字を使うことがあるので、SNSやチャットアプリではフルセットが推奨されます。日本でも顔文字などで様々な文字が使われていますよね。( ˘•ω•˘ ).。oஇ
3.フォントの制作工程
Sandoll社では大きく3ステップに分かれています。
おおまかな流れはハングル、和文とも各社似ているのではないかと思います。イワタとの大きな違いは、なんと1万文字への拡張はデザイナー1名で行うということです。
過去のnoteで紹介していますが、イワタはオペレーター陣のおかげでたくさんの文字を迅速に作成することができています。一方、ハングルは漢字に比べ画数や構造がシンプルなのと、フォント制作ツールGlyphsの機能を駆使することで少人数で短期間の完成を可能にしているそうです。
4.ハングルフォントのデザイン
1)書体の分類
今回は大きく5つに分けて紹介していただきました。
ここではワークショプでも制作した基本書体の「明朝」と「ゴシック」について少し掘り下げましょう。
明朝 부리(ブリ)
一般の人には通じないかもしれないそうですが、Sandoll社では明朝体を「부리(ブリ)」と呼んでいます。ブリとは鳥のクチバシのことで、明朝の起筆のエレメントを指します。
ハングルにおける明朝体は日本のものと少し異なります。私たちがイメージする「太いタテ画、細いヨコ画、三角のウロコ」をハングルに当てはめたものは、現代主流の明朝体よりデザイン書体に見えるそうです。
ではハングルの明朝体はというと、少し楷書体のような筆遣いをしています。これは昔の書物の本文がこのようなスタイルであったからです。
明朝の中でも骨格やエレメントなどの形状によって、書体のイメージを作り分けられます。例えばブリであれば筆書らしい形状ほどクラシックで、シンプルで機械的なほどモダンに見えます。
ゴシック 민부리(ミンブリ)
민(ミン)は 無い という意味です。つまり「起筆のエレメントがない」なので「サンセリフ」と同じ表現ですね。
こちらも起筆に筆抑えがあったり、先端が少し膨らむなど線に動きがあるとクラシックに、線や骨格を直線的・機械的につくるとよりモダンに見えます。(画像をクリックすると見やすくなります)
2)組み方向や字幅
以前は縦にも横にも組んでいましたが現在は横組が主流です。Sandoll社でもデザインのチェックはほとんど横組だけだそうです。縦長の看板や、若いデザイナーがおしゃれや新鮮さを狙って縦に組むことはありますが、多くの書体は横組を重視した設計です。
和文は縦横兼用なので、仮想ボディは正方形で文字を中央に配置するのが一般的ですが、ハングルは長体(縦長)の書体が多いです。
3)重心や骨格
主に高さの基準となる重心は、大きく3つの設計方法があります。
三段目「Sandoll 고딕(Gothic)Neo3」は正方形に見慣れていると新鮮です。Adobe Fontsに入っているものもあるので、お使いの方はぜひお試しください。
組み方向は横重視ですが、骨格には縦書きの名残が感じられます。
パーツごとでは
などなど…
とくに「ㅈ」のバリエーションはそれぞれ違う文字だと思っていたので驚きでした。自然に見える骨格については「5. ハングルフォント制作ワークショップ」でもまた触れたいと思います。
4)基本字種
基本字種とは書体のイメージづくりから、太さ、重心、エレメントといった細部まで、設計を明確にするための文字です。これを見本に文字を増やすので、様々な部首やパーツ、配置パターンなどが満遍なく含まれています。
和文のうち「漢字」であれば、イワタは12字→533字の順に作成します。
そしてSandoll社では下記の文字から作り始めます。
このように、代表的な子音と母音、その組み合わせ方、単語での見え方など様々な要素が含まれています。ハングルは欧文のように単語をスペースで区切って組むので、ワードスペースの見え方も大切ですね。
デザイン方針が決まると、まず特定の母音を持つ文字一式を作成し、次いでサイズ感の似た母音に差し替えて調整…といった具合で文字を増やしていきます。
現地ではより具体的な一覧も見せてもらい「こんなに教えてもらってよいのですか?」と聞くと「大丈夫ですよ」と笑顔で即答!寛大さは大前提として、やはり “手順がわかっても一朝一夕に良いものができるわけではない” ということですよね。書体を見る目を養い、形に起こす技術を身につけることが重要です。
5.ハングルフォント制作ワークショップ
百聞は一見にしかず。
教わったことを振り返りながら、いざ文字デザインに挑戦です!
作る書体については事前に打ち合わせて決めました。
スケッチには昔使っていたというSandollオリジナルの原字用紙を使わせていただきました。お土産としても嬉しいアイテムです!
1)スケッチ
いくつかの書体サンプルを見ながら、自分なりの解釈で骨格を描きます。スケッチに細かいルールはないので各々自由に進めました。
入社して10数年というカンさんの入社当時の研修資料も見せていただきました。直線を引くトレーニングからはじまり、骨格やエレメントなど丁寧に教わった様子が伺えます。
2)中間講評
45分ほど経ったところで一度デザインチェックをしてもらいました。
今の主流は少し縦長な骨格なので、スタンダードな本文用とするにはやや幅広に見えるそうです。
実は明朝体に比べ、ゴシック体は線画がシンプルなので、骨格の微妙な違和感が明確になりやすく難しい書体なのだそう…坂口파이팅!
右上がりが強いと手書き風に見えるので、中庸なデザインにするなら少し抑えたほうがよいとのこと。
얀 のときのパッチム「ㄴ」は、日本人にはちょっと違和感があるくらい右に寄せてよいそうです。他にも、母音の「ㅡ ㅗ ㅜ」は縦画で発音が変わるので小さく使う本文書体ではしっかり長さを持たせる、対して明朝「ㅇ」の起筆はあくまで飾りとして控えめに、など、形の善し悪しだけでなく様々な考え方も教わりました。
3)修整とアウトライン化
おやつ休憩を挟みつつ、先ほどの指摘箇所をアナログで修整。その後、スキャンしたものを背景に敷いて、フォント制作ツールのGlyphsでアウトライン化しました。
4)最終講評
最後にアウトライン化したものとスケッチとを見比べながら講評していただきました。
〈書体の印象〉
・ゴシックは正方形に近くクラシック
・明朝はブリ(起筆)が筆書風でモダン
ハングルの明朝は、時代が進む中で起筆の形状がデフォルメされ、現在のスタイルのブリが完成しました。和文だと筆書の収筆が三角形のウロコになった感じでしょうか。そのため筆らしさを強く残したブリはむしろ新鮮で、モダンに感じたのだそうです。
どちらも海外の人が書いたようには見えないとお褒めの言葉をいただきました!ハングルに限らず、ネイティブから見た自然なバランスは書体設計で大切なことのひとつです。まだまだ広い世界の入り口に立ったかどうか…というところですが、プロから教わる贅沢で楽しいあっという間の一日でした。
6.和文フォント制作をレクチャー
こちらもゴシックと明朝、本文用の想定で「東のかぜ」の4文字を制作していただきました。
1)文字の特徴の説明
日本の文字の成り立ちの他「東はフトコロや重心の基準となる」「かなは漢字より小さく」など、作る4文字の役割や特徴をより詳しく説明しました。
2)骨格のスケッチ
和文、とくにひらがなは書き慣れていないと難しいので、骨格と肉付けは段階を分けています。
3)中間講評
やはりひらがなが難しいようで、自然なバランスや調子の揃え方などを重点的にチェックしました。次の工程である線幅の付け方や、筆遣い、エレメントなども説明します。
4)肉付け、アウトライン化
修整した骨格を5cmに拡大して肉付けし、ハングルと同様にGlyphsでアウトライン化してもらいました。
5)最終講評
ゴシックはクラシック寄りですっきりした印象の書体と、モダン寄りでおおらかな曲線の書体に仕上がりました。「Sandoll 고딕Noe1」と合わせることが目標で、和文デザイナーの思うスタンダードを目指すには前者の雰囲気、曲線の質では後者が合っているように思い、同じ目標の書体でもさまざまな可能性が広がりました。
明朝は直線的な骨格に力強い筆遣いの凛々しい書体と、線の太細や曲線を活かした柔らかな書体で、硬軟の性質がそれぞれ一貫されており50音の展開を想像したくなるデザインでした。
ワークショップのメンバーをはじめ、ご協力いただいたデザインチームのみなさま、通訳キムさん、本当にありがとうございました!
そしてそこの貴方も!ここまでお読みいただきありがとうございます。少しでも得るものがあったなら幸いです。
最終回は観光気分でユニークな施設や街中の様子をご紹介予定です。もう少し余韻にお付き合いくださいませ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?