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【「訳者あとがき」公開】『不安・心配と上手につきあうためのワークブック』

 デビッド・A・クラーク、アーロン・T・ベック著『不安・心配と上手につきあうためのワークブック』が、まもなく小社より発売になります。

 本書は、全般不安、心配、パニック、社交不安など、生活に支障が出るほどの「問題のある不安・心配」を抱えておられる方を対象にしています。ワークを行いながら読み進めると、認知行動療法の手法で問題のある不安を減らす方法が身についていく本です。

 総ページ数432ページ、ワークシートの数だけで70以上と大ボリュームの本書には、長年研究・実践が重ねられてきた「認知療法の叡智」がみっちりと詰まっております。特にパニック症、社交不安症については、それぞれ章を設けて詳細に述べられており、悩まれている方に是非お読みいただきたい充実の内容となっております。

 昨日は、監訳者の大野裕先生の「監訳者まえがき」の記事を投稿いたしましたが、本記事では、訳者である林竜也先生による「訳者あとがき」を全文公開いたします。

訳者あとがき


 不安や心配は、誰もが感じることがある一般的な感情だと思います。しかし、それが過剰になり、問題になると生活の質は低下し、今まで自由にできていたことが制限されていきます。不安や心配に悩む生活が続いていく中で、自分が持っていたアスピレーション(夢や希望)を忘れてしまうこともあるかもしれません。

 この本は、従来の認知行動療法(CBT)に基づく介入に加え、その従来の認知行動療法を修正した「リカバリーを目指す認知療法(CT-R)」の考え方や介入法が取り入れられた、セルフヘルプのためのワークブックです。

 CT-Rは、元来重篤な精神疾患の治療のために開発されましたが、その適用範囲はそれだけに留まらず、一般的な心理的問題にも有益な考えをもたらします。

 この本は、「不安はあなたの敵ではありません!」という印象的な言葉で始まります。その言葉が意味しているのは、不安や心配は問題になるだけでなく、適応的な側面があるということです。不安や心配があることによって、何かに取り組もうと思えたり、準備しようという気持ちになるという側面があります。しかし、不安や心配が強くなると、何とかしてそれを取り除こう、なくそうとしてしまうのも自然な気持ちです。

 不安や心配は、それをなくそうと、とらわれてしまうことが、逆に症状を強め問題となります。そのため、不安や心配をなくそうとするのではなく、上手につきあうことが大事だとこの本の中では強調されています。このワークブックは、不安や心配によってコントロールされるのではなく、あなた自身が自分らしい生活を取り戻していくうえで助けになると思います。

 それでも、不安や心配と向き合い、つきあおうとするのは大変なことです。不安や心配が問題になる前にこころの中にあったアスピレーション(夢や希望)をもう一度思い出し、何のために変化しようとしているのかをこころの中で新たにすることも大事です。

 アスピレーション(夢や希望)と言いますと、面はゆく感じたり、それが何に役立つかわからない、ただ不安がなくなればいいなど感想を持たれたりするかもしれません。しかし、アスピレーション(夢や希望)は皆さんが不安や心配にとらわれていなかった時期には、こころの中に自然にあったものだと思います。

 また、不安や心配がありながらも、認知、行動、感情のすべてがうまくかみあい、前に進んでいた最高のときを思い出すことにもつながります。このような状態のことを、ワークブックの中では「適応モード」と紹介しています。適応モードとは、決して特別なものではなく、皆さんの中に自然とあるものです。ただ、不安や心配にとらわれている中で、そのことを思い出しにくくなっています。このワークブックは、再びそれを思い出し、前に進む助けになると信じています。

林 竜也(はやし たつや)
精神科医。医療法人心葉会 林こころのクリニック院長。
奈良県立医科大学医学部卒業。奈良県立医科大学精神科、三重県立こころの医療センター、天理よろづ相談所病院精神科、上野病院などを経て、2012年林こころのクリニック開業。


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