見出し画像

文章を書く時には「すきま」を作ってみる。一田憲子さんの本を読んで思ったこと。

ここ数週間、気持ちの波が大きくて中々思うように noteが書けなかった。
そんな中のふらっと立ち寄った本屋で、編集者・ライターの一田憲子(いちだのりこ)さんが書いた「暮らしを変える書く力」(kADOKAWA)という本が目に止まったので買ってみた。
一田さんは女性誌で執筆されたり、『暮らしのおへそ』(主婦と生活社)、『暮らしのまんなか』(扶桑社)では企画から編集までをこなされている方らしい。

なぜこの本に惹かれたのかと言うと、意図があったのかはわからないが、「書くこと」をテーマにした本なのに本屋の中でなぜか「実用書」コーナーの料理本の近くに置かれていたのでなにか面白いと思ったのと、
本の表紙が白地にタイトルのみのとてもシンプルな構成で、そこに筆者のこだわりのような物を感じたからだ。

実際に読んでみると、想像以上に面白い本で、筆者の一田さんは文章を書くということに対してとても真摯に取り組まれる方なのだと思ってすごく好感が持てた。

特にすごく勉強になったのが、

…「感じたことを伝えたい!」と思ったら、まずは相手にきちんと「事実が伝わる文章」を書く、ということが第一歩。
「この文章でちゃんと伝わっているかな?」と一歩引いて考えることが大切です。
(p.21)

という文章を書くときの心構えを示していることだ。

一田さんは、文章には二種類存在すると指摘する。

ひとつは「自分を出さずに書く」文章。
もうひとつが「自分を出して書く」文章。

前者は、雑誌記事のように個人の意見を出さずに、インタビューやショップ紹介のように事実を事実として書くスタイル。
後者は、SNSやブログのように自分発信の文章。

特に後者の「自分を出して書く」文章に対して、一田さんには危惧があるように思えた。

SNSやブログの普及によって、一般の人でも自分発信できるようになったが、その弊害として「伝わる」ことより「伝える」ことに重点が置かれているように感じる。

だからこそ「思ったことを言葉にする方法」を書いたハウツー本を最近よく目にするのだろう。

しかし一田さんは「自分の思い・考えたことを言葉にする」ためには、まず「事実を事実として書く」ことができないといけないと指摘する。

書くことにおいて「事実」をしっかり「事実」として言葉で切り取ること。
その前提条件を読み手に共有できてこそ、初めて自分の思いが伝わるし、
事実を丁寧に書くことで客観的な視点も生まれ、より読み手の共感を生みやすい文章になる。

自分自身を振り返っても一田さんの本を読んで「伝わる」ことと「伝える」ことに関して今一度考えさせられたし、一田さんの書くことに対する温かいけれども厳しさも併せ持ったこだわりを見た。

全編に渡って一田さんの書くことに対する考え方のエッセンスが詰まった一冊だが、
すごく実践的なアドバイスもあったので少し抜粋したい。

「私は」という主語を極力少なくする。

youtubeやtiktokをはじめ、映像を通して情報を得る機会が圧倒的に増えた現在において、
文章の良さは「映像がないこと」にあると、一田さんはおっしゃっている。

それは文章を自分なりに解釈し、「読み手が自分を挿入できる『すきま」』がある」(p.52)からだ。

そして「すきま」のある風通しの良い文章を書くためのコツとして、一田さんが提案するのが「私は」「私が」という主語を極力すくなくすることだ。

「私は」が多くなる文章は、「自慢話」の匂いがします。
「私はこんなところに行って、こんなすごい人と出会って、こんな素晴らしい体験をして、こんなことを考えました」と、、、。
これでは、読み手が入り込む「すきま」が1ミリも見当たらなくなってしまいます。

読み返して「私」が多いなと感じたら、その箇所を「私」を使わない方法で書き換えます。
つまり客観的な視点で書く、ということです。
すると、個人的体験が、みんなで共有できる「事実」へと変わっていきます。

(p.51-52)

「私」という主語をあえて削って書くことで、読み手も自分自身を重ね合わせ、追体験することができる。

一田さんの言葉を聞いて改めて思ったのが、文章の良さは書き手個人が発見した出来事・思いに、読み手が自分を重ね合わせて共感できることだと思う。

映像もわかりやすいという意味ではすごく有用だが、どちらかというと情報を受け取るという側面が多い。
それに比べて文章は、一つのテキストを通じて、読んだ人それぞれの解釈の仕方、イメージの持ち方が可能である点が特徴だと思う。

自分自身も文章を書くにあたり、「すきま」を大事にしながら、少しでも読んでくれる人の背中を押せる文章を書きたいと思わせてくれる一冊だった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?