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ドミニカ移住 #19 : 異国のプロ野球スタジアムに押し掛けた日②

↓この話の続き

思わぬプレゼント

 少し待ってくれと言われ、時間をつぶすためにコンコースに立ってひとりぼんやりとグラウンドの様子を見ていると、40~50代と思われるひとりの男性が近づいてきた。この球場を本拠地とするチーム「ティグレス・デル・リセイ(Tigres del Licey)」の野球帽を被った、どこの誰だかわからない彼と客席に座って話をする。


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 どうやら彼は球団関係者でもスタジアムスタッフでもなく、単なるリセイファンらしい。ただ、長年球場に通い詰めているがために、関係者とも仲が良く、リセイのコーチや選手とも顔見知りなのだという。そんな彼は突如グラウンドにいるチームスタッフに向かって「おい!彼女にボールをあげたいから一つこっちへ投げてくれ!!」と叫びだした。彼は驚いている私を横目にグラウンドから投げ込まれたボールを受け止める。気づいた頃には、そのボールが私の手の中に納まっていた。


思わぬサプライズに、気分は最高潮。このさきどうなるか分からないが、この出来事だけで今日キスケージャに来た甲斐があると思った。

 誰もいない客席に2人座ってしばらく話をしていたが、試合開始時刻が近づくにつれてぞろぞろと球場内に人が増えだしてきた。場内スタッフが出勤して自分たちの持ち場についているようだ。男性は次々にすれ違うスタッフと挨拶を交わし、もれなく横に座っている私のこともみんなに紹介してくれた。


Aに待たされた結果は

 試合開始時刻が近づいたため、私は先ほどのオフィスに戻った。すると中にいたAは「詳しいことは彼から聞くといい」と、若い男性Mを紹介してくれた。Mについていき諸々の説明を受ける。試合中、観客にフルーツジュースを売り歩いてほしいといわれた私は、さっそく手渡されたボロボロのリュックサックの中に、冷えたジュースを15本ほど放り込んで観客席へ出ていった。

 とにもかくにも、入場料を払わず球場内に潜入するというこの日の目的は達成することができた。さらに、運よくこの日は「ティグレス・デル・リセイ vs ラス・アギラス」というライバル球団同士の試合。ファンの熱狂ぶり、日本とは異なる応援方法を早速生で見ることができたことにも大いに感激。ジュース売りもそこそこに、ピザを売る若者やホットドッグを売る若者たちとすれ違い際に言葉を交わし、試合途中からはこのスタジアムで働いている人たちといかに仲良くなれるかを考え行動していた。



 この国に来てから、これまで何度も人の優しさや日本では考えられないような経験に遭遇してきたが、この日の一連の出来事は、改めて彼らの優しさや柔軟性に感激させられた出来事だった。出入口に立っていた警備員の男性、オフィスで話した男性A、リセイファンの男性、そしてジュース会社の社員M、この日出会った人たちはこの日以来、私が球場に行くたびに挨拶を交わし雑談をしてくれるようになった。



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