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ドミニカ移住 #17 : ドミニカ共和国にあるそのへんのグラウンドの女子ソフトボールチームの練習


前回(↓)の話の続き


飛び入り参加

 ついさっき出会ったばかりの少年野球のコーチからなぜか「早く!走れ!走れ!」とけしかけられ、高校の部活時代を思い出すような猛ダッシュで野球場の中にいる女子ソフトボールチームの元へ走る。横で練習している他の少年野球チームからも視線を感じるが、恥ずかしさから一瞥もくれず、一直線ですでにアップを始めているソフトボールチームの元へ向かった。


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別日に撮影した練習場の様子


 40代から50代とみえるコーチらしき2人の中年男性と、練習している女性陣(小学校低学年ぐらいのかなり小さな少女から20代くらいに見える子連れの女性まで、年齢層は幅広い)が15人前後いただろうか、私服のような格好の人もいれば、ある程度運動できそうなウェアを着ている人もいて、ぱっと見、一体感のあるチームという感じはない。

 コーチ2人を含め皆この突然の事態を面白がっているのか、何の抵抗もなく練習の参加を受け入れてくれたが、やはりどこか不思議な目で見つめられているような気がした。彼女たちからしてみても、「いきなりアジア人の女を放り込まれてどうしたらいいんだ」という戸惑いを感じていたかもしれない。すると、集団の中から10代後半の(ぐらいに見える)細身の女性がでてきて私に声をかけてくれた。凛とした表情の彼女はこのチームのリーダー的存在のようで、他のみんながバッティング練習に入る中、ひとり私のアップに付き合ってくれた。


外野ノックで見た光景


 アップのランニングを終え、進行中の外野ノックに混ざる。女性陣は一列に並んでコーチが打つノックを受け、もう一人のコーチに返球する。私がグローブを持っていないことに気づいたのか、私の順番が近づくと、そばにいた女の子がグローブを貸してくれた。よく見てみると彼女たちもグローブを持っていない人が大半で、3つくらいのグローブをみんなで貸しあっているようだ。ノックを受けた人から順番に列前方の人にグローブを渡していくのだが、そのときには面白いくらいにグローブが宙を舞う。「グローブ(道具)を大切に」「相手の元まで歩み寄って手渡しするのが普通だろう」などといった考え方はあくまで日本的なもののようで、彼女たちはまるでどうでもいい靴下か何かを投げるかのように、離れたところからでも渡す相手に「へい」と合図をしてグローブを投げ渡す。その行為は日本人の私にしてみると実に「適当」で、驚きの半面、興味深さも感じた。ノックを受けた直後そばにいる人と話し始めてしまってグローブを他の人に回すのを忘れ、次にノックを受ける人の手元にグローブがないときには、「ちょっと、私グローブないんだけど。誰か早く貸してよ」的な会話が飛び交う。日本の部活ではまず起こらなさそうな展開や空気感が、かなり独特だ。


ノックにしてもバッティング練習にしても、自分の番以外はお喋りタイムと言わんばかりのゆるい雰囲気の中で練習は進んだ。ときにグローブがないだの、少し他人からアドバイスを受けるとイラついて拗ねかけるだの、でもだいたいは楽しそうにはしているという、私にとっては不思議(はちゃめちゃな)な光景だった。また、高1から高3までの部活で練習しただけの私だが、ここではかなり優秀なプレーヤー扱いをしてもらった。1球ノックを受けると、コーチやほかのみんなから「おお!めっちゃうまいじゃん」と、私に対する視線が一変。その後のバッティング練習でも、私が左打ちであることに「スルダなのか!?」と感激された。地域のいち野球練習場に決まった曜日に練習したい人が集まる、放課後クラブ的なものなのだろう。メンバー内には、普段から仲のいい者(同じ学校?)同士のグループがあることを薄っすらと感じた。みんなに練習の参加を受け入れてもらったものの、戸惑いもあって当初は少し遠慮を感じてしまっていた私だが、一緒に練習していくうちにお互いの緊張が少しずつほぐれ、距離感が縮まっていくのを感じた。


▲ 翌週末に行われた別の練習試合のときの様子
 (私はある理由で出場できず観戦のみ)


練習後のミーティングで起こった抗議


 練習が終了すると、コーチたちはみんなを集合させて週末に行われる試合の話をし始めた。交通費や昼食費が必要のため、現金を持ってくるようにとのことらしい。すると、なにやら女性陣は不満そうな表情を浮かべ、先ほど私のアップに付き合ってくれたリーダー的な子やその友人たちがコーチに向かって「交通費と食費だけでそんな額は高すぎる」と抗議をし始めた。すべての内容を理解することはできなかったが、年上の指導者に向かって正々堂々と意見を述べる彼女たちの姿が頼もしく見えた。また同時に、これまで日本では見ることのなかった光景を目の当たりにして、もっと彼女たちのことを知りたいという好奇心が湧きたった。コーチは私も土曜の試合に来ないかと誘ってくれたが、先約があったため断ったが、その後も来れるときには練習に来ることを決めた。

 飛び入りした女子ソフトボールチームの練習では、メンバー同士間に流れる不思議な関係性、飛び交うグローブ、少女たちによる遠征費についての抗議など、たくさんの衝撃を目の当たりにすることができた。


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数か月後 練習時の様子


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