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文化をデザインするTransition Design 2

前回記事に引き続き、デザイン研究の世界トップ校の1つ、カーネギーメロン大学(CMU)が提唱している「トランジションデザイン」の要点を書き残しておく。本記事は後半のトランジションデザインのフレームワークの部分。

2021年追記
トランジションデザインを実践してみた例は別記事で記載していますので、そちらを参照ください。また、この実践プロジェクトは論文として、国際学会Design Research Societyが主催したPIVOT2020にて、日本初のトランジションデザインの事例として発表を行いました。文献への引用は私の最新の論文を参照してください。

要は何のデザインなのか

デザインする対象が意匠 → 体験 → サービス・システムと拡大していった先に、文化や国策も皆でデザインするようになるよね、という世界観を語っていると私は理解している。
下図右上の赤枠部分のこと。(この図はこの論文からの引用)

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で、下の図(この論文からの引用)がまた面白いのだが、その壮大なスケールのデザインを、全く新しい手法でやるのではなく、あらゆる物事を分子レベルからのアナロジーで捉えているのがロマンを感じる。我々が生物として存在してきた歴史、作り上げてきた文明、生活してきた惑星、すべてを貫く、壮大な叙事詩のようだ。

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複雑なものを解決可能な粒度に分解して解くという従来の問題解決アプローチではなく、複雑系を複雑系のまま捉えるという考え方。
なめらかな社会とその敵」を私は思い出した。

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ということで、以降の文章は、Transition Design Overview (PDF) の4章、トランジションデザインのフレームワーク部分の記載をgoogle翻訳+解釈し、私なりに要点を抽出したもので、本編そのままの和訳ではないのでご注意ください。詳しくは原文を参照のこと。

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1. Vision for Transition | 移行のビジョン

トランジションデザインは、現在の状況に新たな情報を与えたり刺激を与えるために、デザインのツールや手法を助けとして、より魅力的な未来志向のビジョンを生み出すものである。

Dunne and Raby (2013) は、「ビジョンは、あり得る未来と新しい生き方について議論する余地を作り出す」と主張している。我々は不信を停止し(虚構だと思いつつも本物だと信じ)、物事が今どうなっているかではなく、将来どうあるべきかについて想いを馳せる必要がある。

トランジション・デザインは、ダイナミックで草の根的な、オープンで思索的な未来のビジョンを構築する。循環的・反復的・試行錯誤的なプロセスで、未来志向の根本的な新しいアイデアを想起したり、現在の解決策構築にも役立つ。例としては、Dunne & Raby のクリティカルデザイン・スペキュラティブデザイン (2013) や、ManziniとJegouのSustainable Everyday (2003)などによるバックキャスティングやシナリオプランニングがある。

2. Theories of Change | 変化の理論

こんなにも切迫した変化の必要性がある時代は過去に無かった (Max-Neef 2011)。だが、社会の変化は、変化というものに対する我々の考え(変化はどこで始まり、どのように飛び火し、進むのか)を柔軟に変えていける能力に依存している。生態系レベルでの社会変化のデザインは、本質的に学際的なもので、様々な分野のアイデア、理論、方法論によって与えられる。

複雑な生態系での変化を説明し、現在のパラダイムや前提に意を唱えるような、物理学、生物学、社会学などを包含した新しい学際的な知識体が現れている。また、そのような生態系内の変化は、促進されたり、穏やかに導かれることはあるが、管理や制御することはできず、結果を正確に予測することもできない。そのようなものをデザインする考え方は、デザインと問題解決の新しいアプローチを与える可能性がある。

トランジションデザインフレームワークは、より持続可能な未来への移行を開始・促進する新しいツールや方法論をデザイナーに提供することを目的とした、流動的で進化を続ける学際的な知識とアイデアの体系である。

以下のような多くの分野の理論の深い知識が必要になる
・生物系理論 | Living Systems theory
・マックス・ニーフの9つの基本的ニーズ | Max-Neef’s theory of needs
・地政学 | Sociotechnical regime theory
・ポスト科学 | Post normal science
・日常生活の批評 | Critiques of everyday life
・代替経済 | Alternative economics
・社会実践理論 | Social Practice theory
・社会心理学 | Social pyschology research

3. Posture and Mindset | 姿勢と心構え

過渡期に生きていると、常に内省と新しい生き方が必要になる。基本的な変化はだいたい、自分の思考や世界観の変化が起こった結果であり、他者とのやりとりの仕方も変化していく。信念、価値観、思い込みや期待などの我々の個人的・集団的思考は、我々の個人的経験、文化的規範、宗教的・精神的信念、そして社会経済的・政治的パラダイムによって形成される。

あまり気付かれないものだが、与えられた文脈の中で何を問題として取り上げるか、どのように処理・解決するかは、デザイナーの考え方や価値観に大きく影響している。トランジションデザインは、より総体的な世界観の中で地球規模の問題を捉え、ベストな着想を提案するため、デザイナーに自分の価値観と、それがデザインプロセスにおいてどのような役割を果たすか内省するよう求める

以下のような価値観が必要である
・あらゆる価値観を許容すること | Shifting values
・先住民の知恵を大切にすること | Indigenous, place-based knowledge
・未来・人類への問いを考えること | Goethean Science/ Phenomenology
・学際的であること | Understanding/embracing transdisciplinarity
・不確定の中でデザインすること | Ability to design within uncertainty
・変化の能力への楽観性と切迫感を持つこと | A committed sense of urgency..

4. New Ways of Designing | デザインの新しい方法

持続可能な社会への移行には、新しい価値観と知識に基づくデザインアプローチが必要になる。トランジションデザイナーは移行の仲介者として「長期に渡り残り続けるもの (Long Now)」のビジョンを作り、現在の問題解決とは全く異なるアプローチを取る

トランジションデザイナーは、厄介な問題 (Wicked Problem)を観察し、解決するために学ぶ。単一のデザインやソリューションを、将来のビジョンに向かっていく長い長い移行の1ステップとして捉える。意図的に短命で、長期的な目標を達成するためのステップとして消えていくソリューションをデザインすることもある。長期間にわたり変化/進化するようにデザインすることもある。トランジションデザイナーは、状況に対し計画された、完璧な解決策を押し付けるのではなく、問題の文脈の中で「新生の可能性 (Emergent Possibilities)」を探す。このようなデザインは、地元の生態系や文化を深く理解する必要がある。

トランジションデザイナーは、次の3つの分野で機能する。
1. 未来の、あるいは未定(not yet)の、強力な物語とビジョンを構築する
2. 地域コミュニティや組織が実施している草の根の活動を拡大して繋げる
3. 学際的 (transdisciplinary)なチームで動き、移行ビジョンに根ざした革新的で地域ベースのソリューションを設計する

トランジションデザインは独創的なデザインだと考えているが、サービスデザインやソーシャルイノベーションデザインなどの他のデザインアプローチと補完的である。トランジションデザインでは、継続した学習と個人の変化、時間の経過とともに複数の・反復的な介入により生態系 (System)を粘り強く変えていくことへのコミットメントが必要である。

以下のような新しいデザインアプローチがある
・初期値のデザイン | Design for ‘initial conditions’
・地域・文脈ベースのデザイン | Placed-based, context-based design
・系のLvアップ・ダウンのデザイン | Design for level up / down in the system
・網・連合体のデザイン | Network & alliance building
・学際的・共創デザイン | Transdisciplinary and co-design processes
・草の根活動の増幅のデザイン | Design that amplifies grassroots efforts
・未完のデザイン | Beta, error-friendly approach to designing

ここで言われていることは、心構えみたいなもの

ここまで読んで頂いた方には申し訳ないが、フレームワークと言っても、心構えくらいなものしか書いていなかったのがお分かりだろう。他の論文も読んだが、これより深いレベルで個別のステップまで書かれているようなものは無かったので、今の段階ではこういう態度が21世紀のデザイナーには必要だ、くらいに思っておけば良いと思う。とはいえ、学際的であること、問いベースで考えること、常に内省を繰り返すことなど、禅問答みたいな感じだが、将来のデザイナーに必要なエッセンスは詰まっていると思う。

2100年のデザイナーが、こんなの当たり前じゃんと言ってこの記事を読んでいてくれたら嬉しい。

ちなみに、冒頭の9マスのデザインに対する回答はこちらである。これで今日から僕らもトランジションデザイナーだ!

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