【感想】silent 第6話
※この記事にはネタバレを含みます。ぜひ本編をご覧になってからお読みください。
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6話で特に印象的なのは、同じこと/違うことという対比ではないだろうか。上の湊斗(鈴鹿央士)のセリフを借りるなら、好きな人・嫌いな人は「他とは違う人」、どちらでもない知り合いは「他とは同じ人」に当たるだろう(余談1)。
奈々(夏帆)が想(目黒蓮)に伝えた言葉は、自分や周りの変化についていけず、戸惑う想を救う。悲しいときもあれば、嬉しいときだってある。どんな違いを持っていようと、みんな同じ。その事実は、違いに悩まされる人たちを助けるものだろう。
それでも、人は都合よく「違い」を取り出して誰かと線引きをする。そうした方が楽なこともあるし、自分を守ることだってあるからだ。想が「俺まだ聞こえるし」と奈々の好意を拒絶してしまったり、奈々が「あの子に聞こえない想くんの気持ちは分かんないよ」と聴者とろう者を分けたりすることがそれに当たるだろう。
「違い」を取り上げること自体は悪いことではないのだ。だって違うから。好きな人はどうしても好きだし、嫌いな人はどうしても嫌い。子どもを産めるのはどうしても女性だけで、親と子なら子の方が若くて当然。
ただ「違い」を取り上げることによって誰かが傷ついていることには、目を向けなければならない。嫌いだからあからさまに拒絶すればつらいし、「男にはわかんないよ」と邪険にすればいい気はしない。「子どものお前にはわからない」と言ってしまえば、その気持ちを理解しようとする意思だってなくなってしまう。
「同じ」を挙げ始めればきりがなくて、だから「違い」を取り上げて特別を伝えようとする。恋愛はどうしてもそういう「違い」が表出しなければ成立しない。例えそれが、誰かを傷つけるとしても。
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奈々は夢で、理想の光景を思い浮かべる。青いハンドバックを持って、好きな人に電話をかける。手話は必要なく、手を繋いで歩きながら喋る。目が覚めて、現実にはならないことがわかる(余談2)。
そして、奈々が夢で持っていたハンドバックの青は、想と思いを通わせる紬(川口春奈)のコートの青色に置き換わってしまう。
最後の回想シーン、図書館での一幕。
本来、言葉は「誰にでも伝わる」ことこそが役割だ。どんな人でも自分の気持ちを伝えられ、それが互いに理解できるようになるためのツールが言葉だ。でも、ここでの手話は、二人だけの世界を表すものだった。
奈々にとっては想への大切なプレゼント。そして想にとっても、手話という言語は奈々に対してだけ向けられるもの。同じ手話でも、二人にとってはただの言語ではない、他の人との違いを意識させる「気持ちそのもの」でもあったのだ。
そんな二人を繋ぐ手話が、想と紬の間でもやり取りされていること。「違い」は「同じ」になってしまったこと。だからこそ、想と奈々が二人で話したときの、
という奈々の台詞がつらい。二人にとっての"手話"が通じ合わなくなった瞬間はあまりにも切ない。二人だけの世界、二人にしか通じ合えない特別な気持ち、それらを含んだ手話が、今の二人の間ではただ他と同じ言語になってしまう。同じに救われた想と、違いを特別に感じていた奈々は、どうしてもすれ違ってしまう。
想から発せられた「あなたにだけ伝わればいい」という気持ちが、視聴者である私たちに向けられるのがラストシーンだ。
奈々がスマホを耳に当てる。ただそれだけの行為は、これまで見てきた私たちにしか伝わらない意味を含んでいる。6話に至るまで、多くの登場人物たちが伝えてきてくれた「言葉を越える気持ち」を、これほどまで視聴者にぶつけてくれる演技に感動する。
最後だけチラッと見た人には、きっと分からない。だけど、そこまでの過程を見てきた人にとっては、言葉よりも私たちに気持ちを訴えかけてくれる。奈々が取ったスマホの音声通話、想は当たり前だけどそれで会話をしようとはしていない、それでも奈々は耳に当てる。聞こえない音を聞きたがるように。伝えられない気持ちを、伝えるように(余談3)。
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