【連載小説】少年時代 後編#41
房子先生は、赴任した学校で新たにサッカー部を作った、
今日はそのチームを引き連れてネズミ先生率いるポンタチームの四年生と初めての練習試合にやって来た、
房子先生の後ろをリュックを背負った小さな四年生達がチョコチョコついて来る、その姿はまるでカルガモの親子みたいだった。
「久しぶりやな、房子センセ、また切れるとこ見せてー」
房子先生は揶揄うポンタ達に向かってピースサインをした、
「手加減せんといて下さいよ」
房子先生は野木先生のようにニヤリと笑ってネズミ先生に言った、
野木先生と結婚した房子先生は今では野木先生だ、似ているのも無理はない、
今日ポンタ達は四年生の応援だ、
ポンタチームの四年生は30人近く交替メンバーも数多い、それに比べて房子先生のチームは試合が出来るギリギリの11人しかいない、
試合中ポンタチームは次々とメンバーを交代させた、しかし房子先生チームはギリギリの人数のためそれが出来ない、
練習試合はポンタチームの一方的な展開となり、一本目10−0、二本目12−0、三本目15−0、とすべてダブルスコアの差が付く試合となった、
それでも房子先生チームの選手達は走り続けている、一点も取れない、交代もできない、疲労も溜まっているはずだ、
しかし弱音一つ吐かずユニフォームも顔も泥だらけになりながら必死でボールを追っていた、
房子先生は腕組みしながらピッチの側に立ち、そんな選手達をジッと見つめていた、
四本目になるとあまりの楽勝の展開にポンタチームは少しだらけ出し、手を緩め始めた、
「お前達、何で相手に合わせるんだ」
ミーティングでネズミ先生が言う、
「なんか、かわいそうになってきたから」
四年生のキャプテンが答えると、ネズミ先生は、
「相手に合わせるな、自分達のサッカーをする事が相手に対する敬意なんだ、かわいそうだからって手を緩めるのは逆に相手に対して失礼な事なんだぞ」
と言った、
それを聞いていたポンタ達は思い出した、
"オレ達もそうやった、
四年生だけ、たった11人から始まった、
最初の練習試合はボコボコにやられたんや、"
結局練習試合の五本すべてポンタチームのダブルスコアでの圧勝となった、
「今日はありがとうございました、手加減なしでやってくれて彼らは成長できたと思います!」
房子先生はそう言い残し、夕暮れの三上山の麓の道をカルガモ親子のように一列で歩いて帰って行く、
"がんばれ!君たちはきっと強くなる!!"
ポンタ達は小さな泥だらけの11人の戦士達を見送りながら思った。
つづく
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