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連載小説 九本足のタコ(27)


オレはこの小さな岩場で九本足のタコとなり、すっかり体力も回復した。数々の修羅場をくぐり抜けてきたオレの顔には深い皺が何本か増え長老のような凄みも加わった。そろそろこの岩場から旅立つ時だ。オレはもう明石海峡の強い潮流の海でも生きて行くことが出来る。

別れ際にキユウセンベラの姉ちゃんは、私はタコになりたい、あなたとずっと一緒に居たい、とポロポロ涙を溢した。よっ色男ならぬ色タコ、まったくお前も罪なタコだ、とオレを迎えに来た長老が冷やかした。

キュウセンベラの姉ちゃんはその綺麗な尻尾をフリフリ振りながら見えなくなるまでオレを見送ってくれた。ゆるせ姉ちゃん、オレはやっぱり明石のタコだ、辛いが行かねばならぬ、ありがとういろいろ世話になった、いい伴侶を見つけて幸せになれよ、オレは溢れそうな涙をグッと堪えて長老と共に明石海峡に旅立った。


長老から聞かされていたのか、明石海峡に着くと長老の仲間のタコ達が沢山集まってきた。すげえ本当に九本ある、と皆オレの足を見て驚いていた。

九本足で頭も良いイケタコが明石に住んでいるらしい、とオレの噂は日本中の海に広がった。噂を聞き付けた女のタコ達が毎日の様にオレに会いに来た。中には遥か遠く沖縄の海から来たのもいた。

明石の九本足のタコ。オレはタコのスーパースターになった。


つづく

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