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連載小説 九本足のタコ(1)


オレはタコだ。

名前は無い。

食べられる運命のタコに名前などあるはずもない。


オレは今窮屈な生簀の中で暮らしている。

生まれてからずっとオレは瀬戸内の明石海峡の広い海で気ままに暮らしていた。

オレは強かった。他のタコ野郎達との生存競争を勝ち抜き、海峡の強烈な潮の流れを物ともせず毎日餌を取り逞しく生き延びて来た。


その日オレは大好物のカニを捕まえた。美味かった、なんてったってワタリガニだぞ、別名は上海ガニ、あの有名な高級食材だ。

大きなカニだったから一匹で腹一杯さ、オレは眠くなって近くにあったいい感じのツボを見つけて入り込んだ。

いやーよく寝たよ、寝心地最高!天敵のウツボに襲われる心配も無いし、爆睡してたのさ。

突然のゴトン!という激しい振動でオレは目を覚ましたんだ。


ヤベー!蛸壺だった!

オレは慌ててヌルヌルと壺から這い出すと漁師の爺さんがおおこれは良い型じゃと言ってオレの大切な頭をむんずと掴み船の生簀にボチャンと放り込んだ。

生簀には他にもタコが沢山いたんだ。蛸壺に捕まった間抜けなタコ野郎共さ。と言ってもオレもその一匹なんだけどな、トホホ。


つづく

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