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連載小説 九本足のタコ(25)


海に戻ったオレは小さな無人島に波の静かな岩場を見つけた。激しい潮流の明石の海に戻るには余りに体力が落ちている。足の傷が癒え元気を取り戻すまで、しばらくの間ここで小さいカニや貝を食べて過ごす事にした。

人間の家で飼われていた七本足のタコがいるらしいと、オレの事は瞬く間に瀬戸内中の魚達に知れ渡った。

無人島の岩場での生活にも大分慣れたある日の事、おおやはりお前だったか!生きていて何よりだ、と海鮮料理屋の生簀で世話になった長老が訪ねて来た。長老は明石海峡からオレに会う為にはるばる訪ねてくれた。

長老の方こそよく生きてあの生簀から出られましたね、と聞くと、オレが生簀を出た後、人間界に何やら強力な疫病が蔓延し始め海鮮料理屋が休業となり生簀にいた全ての魚達は海に放たれたらしかった。

さすが長老、並外れた強運の持ち主だ。長老は今じゃすっかり明石の主として海峡のタコ達を取り仕切っているそうだ。


長老はオレの齧って無くなった足を見て少し悲しそうな表情をした。そして秘密の場所からわざわざ取って来たと言う薬草をくれた。

この薬草を毎日傷口にすり込め、そしてわかめを沢山食べろ、オレたち軟体動物に骨は無いがカルシウムはやはり大切だぞ、と言う。

大丈夫だ、その足はまた生えて来る!タコにはな、人間共には無い再生能力があるんだ、と言って長老はニヤリと笑った。


つづく

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