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信用経済

お茶屋さんが非日常な空間であることは、多くの方の認識としてあると思う。

ぼくらは当たり前のように洋服を纏い、米国由来のSNSに日々一喜一憂したり、AmazonやNetflixといったサービスを謳歌している。それも一部を除けば建築なども含め、欧米化された生活様式の中で。
おまけに「ウケる」と「ヤバい」だけで会話が成立しているのではないか、と思うような猛者まで現れる時代になった。

そんな現代にあって身に纏うもの、所作、躾、言葉、決まりごとなどがこれほど異なる舞妓さんや芸妓さん、そしてお茶屋さんの世界は明らかに異文化の世界と思って間違いない。
それはぼくにとって同じ京都にいながら外国と同じか、それ以上に精神的に遠く無縁な場所に感じる。その存在は、もうファンタジーや都市伝説に近いものがあるし、そう考えるとなんて質の高いコンテンツでありエンタメなんだろう。閉ざされた大人のディズニーランドみたいなものじゃないか、とも思えてくる。

エンタメと呼んでいいのか憚られるけれど、これはぼくの語彙力の問題なのでご容赦いただきたい。

これほどのエンタメでありながら今度は視点を変えて大局的に仕組みを見れば、その良くできたシステムに感嘆し唸りそうになる。
つまりハード面とソフト面、それに商いとしての側面が、一つの完全無欠な形として存在している印象を受ける。
一応断っておくけれど、ここに書いていることはあくまでもぼくの浅ーく、薄いペラペラな認識であり私感だよね、程度に思ってもらえると嬉しい。

お茶屋さんといえば「一見さん、お断り」だけれど、それに近いものを想像するとおそらく多くの人が「会員制」を思い浮かべる。
ひとえに会員制といってもその幅は広く、業態も違えば目的や理由も様々で会費も少額から高額なものまである。
ちなみにぼくは会員制といったものとも無縁で、何かなかったかなぁと思い出そうとしたけれど、昔入っていたレンタルビデオ屋さんとJAF(日本自動車連盟)、ガレット・デ・ロワ協会(詳細は割愛)くらいしか浮かばなかった。

会員制の中には、限定商品と同じように希少性や渇望を扇動する狙いでされているところもあるだろうし、特に飲食店の場合には招かざるお客さんが来店しないように、といった意図もあると思う。
これなら不特定多数のお客さんを相手にする商売よりも作り手側は精神衛生面をはじめ、いろんな部分でリスクを軽減することができる。またこれが「紹介制」だと、さらに招かざるお客さんはほぼいなくなる。ただしその場合、分母としての客数が少なくなるため高単価と余程の自信でもない限りなかなか難しい。
特に後者の場合はそうだけれど、いずれにしても店側だけでなく多少なりともお客さんにもお店に対しての信用が必要になる。

店をやっていた人間としては憧れるし、理想的なスタイルでもある。

ぼくがこれほどまでお茶屋さんのことを長々と書き、その仕組みにひれ伏す勢いで感銘を受けるのには、もちろん理由がある。
その歴史などいろいろあるけれど、特筆すべきはすべての根底が「信用」によって成立しているということ。大切なことなのでもう一度書くけれど、「すべて」においてである。

「そんなこと当たり前やろ」と思われた方もおられるかもしれない。特にご商売をされている方なら、「信用で成り立っている」「商売は信用がすべて」といった類いの常套句を口にしたり、聞いたり、思ったりされたことは、一度や二度どころではないはず。それほど当たり前のことである。
けれど、普通に道徳をわきまえた大人ならそんなことはわかっているし、それを言葉にすることも容易い。子どもであっても、まともな子どもならそれくらいのことはわかるし、ご商売をされている人ならそんなことはデフォルトだとさえ思う。

だから「すべての」「すべてに」と述べた。

そのすべてをここで詳細に書こうとすると、あと2000文字以上は必要になりそうなので、「そんなこと当たり前」と思う人ほど、お茶屋さんの徹底さを調べてみてほしい。

SNSの隆盛でフォロワー数によって個人の人気(とは限らない気がするけれど)が可視化されるようになった。それによって自意識の肥大したインフルエンサーが一時、「フォロワー数=信用=お金」といったことを吹聴し、それを信用経済と呼んでいた時期がある。一理あるとは思うけれど、最近ではそれも耳にしなくなった気がする。
それに信用経済というのであれば、ぼくはお茶屋さんこそが最高峰であり完成形だと考える。お茶屋さんが300年もの間、あり続けてこられた理由が脈々と受け継がれてきた「信用」だと思うと驚愕するし、畏敬の念に打たれる。

そして何よりも、この「○○さん(お茶屋さん)なら安心」という揺るぎない信用こそが、本来のブランドとしての在り方だとも思っている。

長くなっちゃった。申し訳ない。

つづく


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