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「ととのいました」
ぼくは特段スイーツマニアでもないし、今ではそれほど頻繁にケーキを食べるということもなくなった。
以前は仕事柄、勉強したり作ったり、食べたりといった機会が一般の人よりは多かったけれど、それでもマニアと呼ばれる人ほどの経験値もない。
その程度の認識ではあるけれど、長年食べもの業界にいてケーキ屋さんの潮目が大きく変わった、と実感した記憶がある。
あくまでも私感だけれど、それはピエール・エルメさんの登場だった。
時代、時代でお菓子業界もスターシェフが現れていたけれど、エルメさんは特別であり突き抜けた存在という印象がある。
よく「パティスリー界のピカソ」と称賛されるエルメさんだけれど、何が、どういったところがピカソなのか、正直イマイチよくわからない。
おそらく、ピカソ=天才=ピエール・エルメさん、だから天才パティシエなのだ、ということなんだろう。
そこで、お菓子業界に明るくない人や日本人向けに、ぼくはピエール・エルメさんのことを「パティスリー界の松本人志」と称したい。
つまり、なぞかけに例えるとこうなる。
ピエール・エルメさんとかけて、松本人志さんと解きます。
その心は、パティスリー界はピエール・エルメさん以前と以降にわかれます。
・・・
ととのっていなかったら申し訳ない。
けれど、エルメさんの登場は、お菓子業界においてそれくらいエポックメイキングなことだったといって過言でないと思う。
ぼくがフランスにいた当時、エルメさんはFAUCHONのシェフ・パティシエをされていた。その後LADURÉEを経てピエール・エルメ・パリを開業されている。
それ以前までパリのパティスリーといえば、ジェラール・ミュロさんが全盛の時代だったと思うけれど、エルメさんの登場によってお菓子業界は何年分も時代が加速し、ケーキそのものも進化した気がする。またそのデザインや味の構成など、当時日本のパティシエさんにも多大な影響があったのは気のせいじゃないと思う。
これが90年代後半から2000年代初頭の頃の話。
ぼくの友人にオーナーシェフで、同じ年齢のパティシエさんがいる。
昔、彼のお店で若いシェフを新しく採用したと話に聞いた。
そのシェフは東京の超一流パティスリーで修業を積んだ人とのことで、ぼくは早速食べなきゃ、と彼のお店に足を運んだ。
大きなショーケースに整然と並ぶたくさんのケーキを眺めながら、ぼくはオーナーシェフである彼を呼んで、こう言った。
ここからここまでが〇〇さん(友人)が作ったケーキやろ。で、ここからそこまでが彼(新しいシェフ)が作ったケーキやね。
えっ・・・、なんでわかったん!?
いや、いや、いや、誰が見てもわかるやろ(笑)明らかに別の人が作ったケーキやん。
新しいシェフが手掛けられたケーキは「最近、東京からやってきました」という洗練された表情で、とてもスタイリッシュでキラキラしていた。
もちろん最先端なのはデザインだけでなく、味もそれまでのケーキから数段進んだ印象を受けた。
あれから20年以上が経ち、近年のケーキは、あの頃からさらに進化を遂げている。
コンビニスイーツの目覚ましい進歩に街場のケーキ屋さんは大変だなぁ、と懸念を抱いていたけれど、そんな心配無用とばかりに最近のケーキ屋さんの味は遥か先に進んでいた。
コンビニスイーツが昔に比べ3歩前進したとすれば、街場のケーキ屋さんは6歩、いや8歩くらい前進した感がある。
無論、コンビニスイーツ躍進によるビジネスとしての数字的な影響は避けられないだろうけれど。
何が言いたいかというと、もしぼくのようにケーキ屋さんがご無沙汰になっている人がおられたら是非、街場のケーキ屋さんに足を運んでみてほしい。
職人さんによる専門店のケーキは、想像以上の進化をしていると思います。
つづく
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