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焼き菓子のスゝメ 5.

ぼくが料理とパンを交互に勉強し、料理修業をしたフランスから帰国したのが29歳になるころ。
30歳で独立することを決めていたぼくは、残り1年を絶対にお菓子屋さんで働こうと決めていた。
1年間しかなかったためパートアルバイトでも構わないし、気持ち的にはお菓子屋さんで勉強できるのなら無給でも構わないと思っていた(現実的には、市内に実家がなかったので無理だけれど)。
ところが帰国し、ほどなくしてパンのお師匠さんから連絡をいただく。

「2軒目をやることになったから、立ち上げを手伝って欲しい」

出来の悪かったぼくに匙を投げることなくパンを教えてくださり、フランスで働いていたときには、ご夫婦でパリまで会いに来てくださった恩義あるお師匠さんの依頼に迷うことなく即承諾した。ただし30歳で店はやりたいことを伝え、1年間の約束で2軒目の立ち上げに参加することになった。

結局、パティスリーという専門店での修業経験がないまま店をやることになった。ぼくの食べもの屋さん人生で、これだけが心残りではあるけれど仕方がない。
そんなぼくがどのようにして焼き菓子を作ってきたかといえば、何ら特別なことはしていない。
一流職人さんのルセット(レシピ)本を読み漁り、辞書を片手にフランスで購入していた原書を訳し、とにかく作ってみた。
パティシエさんが作られた同じ名称のものを食べてみて、わからないことは知人のパティシエさんに教えを乞う。
ぼくの知る限りいま時の職人さんは、訊けば大抵のことは教えてくださる。
だけどこういったこと以上に、ぼくが重要視していたことがあった。

つづく


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