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読書記録 「銀河英雄伝説」 | Jul.17

梅雨寒の金曜日、午後はコーヒーを飲みつつ、ひたすら読書。
「参考になる」とか「研究のために」という軸を久しぶりに外して、単純に物語を楽しもうと、20年ぶりぐらいに「銀河英雄伝説」を書棚から手に取ったのが間違いの始まり。
一気に5巻まで読んでしまった。

30年以上前にノベルズ判で発表されたこの作品は、判型を変え、出版社を変えて、重版を繰り返してきた大ベストセラーのスペースオペラだ。
アニメーションやゲーム、映画にも舞台にもなったほどだから、詳しい説明は不要だろう。

最初に読んだのはまだ10代の頃だったから、「どうせスターウォーズの焼き直しみたいなもんだろ」と斜めに見ていたのだが、読んでみるとこれがただの宇宙戦争ものとは思えないスケールで、たちまち物語の虜になった。

新刊が出るたびに最初から読み直すことを繰り返していたので、1巻の黎明篇は都合10回読んだことになる。
流石に外伝全5巻の時は最初から読み返しはしなかったけれど、それでもこれまでに正伝全10巻と5巻の外伝を3回ぐらいは読んでいるはずだ。

若い頃は、単純にストーリーの展開に惹かれて没入していたものだが、年齢を重ねてから読み直すと、民主主義の構造を知るにはいいテキストかもしれないと思うようになった。
事実、今日読んでも、30年以上前に書かれたことが、現代社会に対する鋭い警句や指摘になっている。
作者の田中芳樹の先見の明というより、30数年経っても民主主義は成長していないのだと気がつかされる。

日本の戦後の政党政治を学ぶには戸川猪佐武の「小説吉田学校」が最適だろうと今でも思うが(あれほどの小説がどうして絶版になるのか、本当に理解に苦しむ)、民主主義とはどういうものかを体感するには、「銀河英雄伝説」の方が多分適している。
「民主主義は専制主義より本当にいいものなのか?」と、常識に揺さぶりを掛けられるのだ。

著者本人が語っているように、歴史書の影響を色濃く受けていて、読んでいる感触は三国志や水滸伝を読んでいた時と似ている。
作中、「後世の歴史家が……」と歴史書の体裁で書かれている部分もあって、政治論、戦争論、イデオロギーへの直接的な批評を可能にしているところも見逃せない(書くテクニックとして)。

今、手元に残っているのは東京創元社から出された文庫版なのだが、いつ絶版になるのかとヒヤヒヤだ。
死ぬまでにあと数回は読むだろうから、今のうちに新刊で一揃え買い直しておこうかと、密かに思っている。
実に危ない。


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