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今はまだ あげるだけ【短編小説】1100文字

100円ショップのイベント感はすごい。
3学期が始まったばっかりなのにもうピンクでハートなコーナーができている。それに、いつもより製菓の材料が豊富になっている。

「ねぇ、今年は何作るの?」
学校帰り、友達の真理まりとちょっと覗くだけのつもりで寄っていた。
「うーん。去年は初めて作ったんだよね。カップチョコ。今年はトリュフにしようかなー。」
「あー、あの歯が折れそうなヤツね。」
「そうそう。せいにも言われた。『大丈夫、アメみたいに舐めるから。』ってフォローされたよ。」
「やさしー!トリュフも固くなるんじゃない?ってもう大丈夫か。晴香はるかのフォロワーまた増えたんじゃない?」
「んー、気にしないようにしてる。作った記録だと思ってるから。あ、トリュフはね、ガナッシュクリームを丸めるからたぶんあれみたいに固くはならないハズ。コレ、かわいー。」
何かを買う予定もないのに覗くと、何かを買わないと出られない。それが100円ショップ。

白地にカラフルなストライプ模様のグラシンカップを買った。
真理はアーモンドダイスとクルミダイスを買っていた。
「真理のそれ、何に使うの?」
とおるの誕生日が1月末だから、これでスコーン作ってあげようと思って。甘いのダメなんだけど、スタバで食べたスコーンが気に入ったみたいで。」
「パサザクの?」
「そ、パサザクの。コーヒーに合うみたいよ。ザックリ感がいいんだって。私はフラペチーノ派だけど。」
「寒いのに?」
「寒いのに!もうすぐ新作でるよー。晴香は赤星あかほしくんに作るの?それとも真理?」
「真理にだよっ!今年も友チョコしよー。」
トリュフを作ろうと思ったのは真理にだし、買ったグラシンカップもトリュフを入れるのにいいかと思って。

真理に言われて、渡してもいいのかなって思った。
2年生で同じクラスになった赤星くん。出席番号順に並んだ席が前後だから話す機会があって。
それから・・・なんで仲良くなったのかな。
いつの間にかどうでもいいようなことを話すようになって、いろんなことを知った。
憧れの先輩が居て、一緒にバレーがしたくてこの高校を選んだこと。
朝練後に食べているおにぎりは自分で作っていること。
カバンには文庫本が入っていて、ひと月で1冊読むようにしていること。
好きなタイプはポニーテールの子。
そっか、だから私、髪の毛伸ばしているんだっけ。

「あー、違う種類も買っておこっかな。戻ってもいい?」
部活に差し入れは持って行ったことあるし、チョコをあげるのは不自然じゃないハズ。
あげるだけ。あげるだけ。
まだ大事にしたいから、あげるだけ。


今回は晴香はるかのお話。
赤星あかほしくんが気になった方はコチラへどうぞ。


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