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ショートショートのアイディアを思いつく方法

「ショートショートって面白そうだけど、どうやって書けばいいんだろう?」
「小説は書いてみたいけど、長編はちょっと……」

 そんなあなたのために!
 誰でもショートショートを書けるようになる方法を、お伝えしまーす!

 こんにちは、|砂塔《さとう》|射月《いつき》です。
 毎日一本、ショートショートをnoteに投稿しています。毎日投稿ですが、雑にアイディアを書きなぐるだけではなく、きちんと小説の形に落とし込むことにこだわっています!

 そんなnote投稿生活も、もうすぐ1ヶ月(2024年8月12日現在)。
 続けていくうちに、僕も/私もショートショートを書いてみたい勉強中です、というコメントをちらほらいただくようになりました。



 でもショートショートって、最初は意外と手こずるんですよね。
 特に、まったく小説を書いた経験がない方よりも、ショートショート以外の小説を書き慣れている方のほうが、違和感を覚えやすい気がします。

 それはおそらく、小説を書くスキルと、ショートショートを書くスキルが、同じようでいて少しだけ違っているせいです。

 そこで、ショートショートに特有の「書き方」を、砂塔の知る範囲でお話できれば、と思い、記事にしてみした。
 大きな賞を獲ったことも、書籍収載の経験もないアマチュアの知識ですが、少しでもお役に立てれば幸いです!

 さて、今回はショートショートを書くスキルの中でも、特に重要な「アイディアの出し方」について語っていこうと思います。

※記事の大部分は無料でお読みいただけますが、砂塔オリジナルのアイディア発想法のみ有料にしています。お買い求めいただけると、砂塔がメルカリで狙っている古本をゲットすることができます。ぜひともご協力を…!



なぜ、アイディアが重要なのか。


 以前にも述べたとおり、日本におけるショートショートの大きな特徴のひとつは、アイディアストーリーであることです。

 アイディアがなければ、ショートショートを成立させることは難しい。
そして逆に言うならば、アイディアさえ打ち出すことができれば、ショートショートを書くことはそれほど難しくなくなります。

 小説現代ショートショートコンテストの二代目審査員を務めたショートショートの大家・阿刀田高氏はかつて、次のように言いました。

ショートショートのほうはアイディアだけで書ける。アイディアが肉体であるならば、それにほんの一枚くらい衣服を着せれば作品として人前に出て行くことができる。短編小説となると、登場人物の性格も納得がいくように作りあげなければいけないし、作品の設定を可能にする諸条件もきっちりと書き込まなければいけない。

『阿刀田高のサミング・アップ』より

 つまり、キャラクターだとか、舞台背景だとか、そういう現代のエンターテインメント小説において重要視される要素を、ショートショートではあまり考えなくてもよいのです。
 むしろ、これらを書きこみすぎると、ショートショートの紙幅に収めることができず、短編以上の長さの小説になってしまいがちです。

アイディアを、物語の中心に。
それ以外は、最低限に。

 これがショートショートをショートショートらしくするための、マインドセットと言えるかもしれません。

ショートショートはアイディアさえあれば、ほとんどオッケー。

 さて、そうは言っても「新鮮なアイディアなんて、浮かばないよ!」「そのアイディアを考えるのが、難しいんだよ!」といった声も聞こえてきそうです。

 果たして、誰でもいくらでもアイディアを思いつく方法なんてものは、存在するのでしょうか。

 ショートショートの神様として名高い星新一氏は、かつてこのように言いました。

ストーリー作りについてなら、いい短編を熟読することで書き方が身につく。しかし、アイデアとなると、どうやれば出るのか、いまだにアドバイスできない。

星新一『ショートショートの広場2』選評より


あなたがそんなこと言ってちゃ元も子もない。

 

 冗談です。
 この当時は今ほどネタバラシがよしとされていませんでしたし、コンテストの選評という立場上、先生もこう語らざるを得なかったのかもしれません。

 実は星新一氏は自身のエッセイで、ショートショートのアイディア発想法について詳しく語っています。

そもそも、アイデア捻出の原則は一つしかない。 異質なものどうしを結びつけよ、である。 常識の殻を破りたいとは、だれでも考えていることだ。 しかし、この殻は非常に強固なもので、いかに待っても自然に割れてはくれない。 異質なものとの結びつきによってのみ可能なようだ。

『進化した猿たち 1』より

 この例として、有名な「ロケット」と「狐憑き」があります。先端技術の粋を集めたロケットで宇宙を旅するだけのストーリーなら、よくあるアイディアです。ところが、ここに古めかしいお狐さまの呪いを結びつけると、とたんに斬新なアイディアへと転身するのです。
 実際にどんなアイディアストーリーになったのかは、有名な『ボッコちゃん』という文庫に「ツキ計画」というタイトルで収載されていますので、ぜひご自身の目で確かめてみてください。

 既存のもの同士を組み合わせたものこそがアイディアだ、という考え方はジェームス W.ヤングの歴史的名著『アイディアのつくりかた』でも語られており、アイディア発想法の基本です。星新一氏はここに「異質なもの」という要素を取り入れ、ショートショートの源泉としたのです。

 ただ、星新一の発想法は理屈こそ理解できるものの、実際に真似てみようと思うとまだ少し抽象的すぎるようです。次の項目からは、現代的観点からより使いやすく整理されたメソッドを見ていきましょう。

田丸メソッド


 田丸雅智氏は現代ショートショートを代表するショートショート作家で、星新一の弟子・江坂遊氏の弟子……つまり、星新一の孫弟子とされている人物です(ただ、作風は星新一とは異なり、ノスタルジックだったり、ほっこりとした読後感の作品が多い印象です)。

 田丸氏はショートショートの普及にも力を入れておられます。

 その代表的なもののひとつが、田丸メソッドです。
 これは、ショートショートを書いたことがない人まったくの初心者でも、楽しみながら短めのショートショート(超ショートショート)が書けるようになる魔法の道具です。

 理論を説明するよりも、実際にやってみたほうが早いくらい簡単です。
こちらのサイトに飛んで、超ショートショートを試作してみてください!

 名詞から発想を開始するという性質上、どちらかというと「不思議な/魔法の道具」系のお話を作りやすいのかな、という印象です。

 魔法のお店や不思議なアイテムは、はじめてショートショートを書くときには考えやすい題材の一つだと思います。
『ドラえもん』『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』などで、多くの日本人が子どものころから慣れ親しんできている題材だからです。

 田丸メソッドについてより詳細に知りたい方は、田丸氏の著書『たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座』をお読みください。

石田メソッド


 田丸メソッドでは少し物足りない方、もう少しアイディアを深堀りしていきたい方には、石田メソッドをおすすめします。
 石田とは、漫才コンビNonstyleのボケ担当・石田明さんのことです。石田さんはご自身もM-1チャンピオンの称号を持つ一流の漫才師でありながら、若手養成所のNSCで講師も務められています。

 なぜ漫才?
 と疑問に思われた方がいるかもしれません。

 実は、漫才とショートショートはとてもよく似ています。どちらも、短時間で日常的な世界と非日常的な世界を対比させ、観客or読者を楽しませる構造だからです。
 江坂遊氏のショートショート創作論『小さな物語のつくり方2』では、ひとり漫才からショートショートを創作する方法が紹介されているくらいです。

 さて、ここで取り上げる石田メソッドとは、Amazonプライム・ビデオ「NSC特別授業」の中で解説されている手法です。
ほんまに漫才を作ったことないひとに向けて」と前置きされており、田丸メソッドと同様に初心者でも作品を完成させられるように、丁寧なつくりになっています。

①まず、「話題」を列挙していきます。趣味・出来事・時事、なんでもいいです。

思いつく限り、話題を列挙していく。

②あがったものの中から、どの話題で作品を仕上げていくかを決めます。今回はまず「学生時代」で考えていきます。

③「学生時代」に対しての「意見」を列挙していきます。何でもいいので、思いついたことをどんどん書いていきましょう。

「学生時代」について、どんな「意見」がありますか?

④つづいて、「学生時代」の「登場人物」を列挙してみましょう。

「学生時代」といえば、どんな人が出てくるだろう?

⑤つづいて、「学生時代」に出てくる「物」を列挙していきます。

いっぱい思い出してみよう。

⑥この「意見」「人物」「物」を、他のすべての話題でも考えていきます。図は「宇宙旅行」と「オリンピック」についても追加してみたところです。

素材が充実してきた…!

⑦ひとつの「話題」に対して、別の話題の「意見」「人物」「物」を組み合わせていきます。話題と話題の関連性が薄いほど、星新一が言うところの異質なもの同士の結びつきになり、斬新なアイディアへと変身していきます。

できるだけ関係のないものを組み合わせたほうが、面白いアイディアになります。


 ちなみに、これらを砂塔が即興で繋いでみたら、こんなお話になりました。

 宇宙旅行ってなつかしいよね。青春だよ。
 みんなで体育館に集合してね、いっせいに乗り込むんだよ。カラオケなんかしたりしてね。
 宇宙船と宇宙船のバトンパスがきれいに繋がる瞬間とかね、なんとも言えない。
 マイシューズ? 持ってたさ。吸盤靴だろ。あれがないと、無重力空間で床に貼り付けないからね。
 私らの頃はまだ不良がいてね。酸素室でタバコ吸ったりするもんだから、えらい目にあったよ。
 ああ、売店のおばちゃん。ハッチ付近のね。なつかしいな、それも。やきそば宇宙パン美味かったなあ。
 若者たちにもぜひ満喫してもらいたいなあ。今は実況中継もつくんだろ? 応援しているよ。

砂塔射月の発想法


 ショートショートのアイディアを考えるだけなら、上記2つのメソッドだけで十分だと思います。
 ですが、砂塔は色々と試行錯誤した結果、どちらのメソッドも使用していません

 ここからは、毎日ショートショートを投稿し続けるアマチュアの奇人が、どのようにしてスピーディかつ大量にアイディアを思いついているのか、どんな発想法を用いているのか、に興味がある方のみ、読み進めることをおすすめします。

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