兄の定期便

82歳独居老人の実チチの面倒をちょっとばかり見ている私には、兄がいる。面倒をみてるのがその兄ではなく私になっている事情は前回のnoteに書いたのですが(→愛憎という名の深い溝)、兄はまるっきり面倒を見ていないと言う訳ではない。でもそう言うものの、じゃあ面倒見ているかと言うと、はっきり言って見てないに等しい。

ただ、私は今はそれでいいと思っているフシがあり、深いところの本音だと、お前、長男だろうがとか、父母どちらか一人になったら面倒見ます、当たり前です!と夫婦で言ってやがったな、と言うのがあるのだけど、そんなに今は期待していない。

そもそも父と兄は仲が悪いのと、相性が良くないんだろうと思うから。そして、どちらにも相手を思いやる余裕もないのかなと感じているから。

そして、母が遺した言葉「人に期待するな 自分に期待しろ 人には感謝するのみ」を胸に、父にも兄にもこうあってほしいなと期待するのをやめている。

父の退院前を最後に、二人は顔をあわせたことがない。しかし、仲が悪いとは言え、仲違いとか喧嘩したとかではなく、今は、距離を置いている、と言う感じ。

私は父のことで私ができないことは兄に相談しようと思っているし、その時はそうしますと本人にも伝えているが、今のところ相談することも別にないから、ここのところ交流が全くない。もう2ヶ月以上になる。LINEさえも送っていない。その前から、若干途絶えてもいたのだから、もうほとんど連絡を取っていないに等しいのかも。

必要じゃなければ、連絡しない、まぁこれが普通のいい歳の兄妹かなと割り切った。

面倒を私が見ることにした最初は父の様子を報告をしていたものの、興味なさそうで自分の親のことのように思えないようなひとごと風な反応にイラついたり、相手が親身にならないことも腹も立てた。そして、報告も義務じゃないしとやめた。代わりに母のことでメランコリックな画像を送る彼のLINEは既読スルーした。

相手を思いやることを優先してきた私だったが、そもそも仲が悪い彼らのあいだに入ることはもう私の仕事ではないし、年上の兄という甘えん坊をいつまでも甘やかすほど暇じゃないのだ、と割り切った。

どうしても母のお金のことで手続きした兄に連絡しなければならなくなった時も、父から兄に連絡させた。私は間に入らない、強硬姿勢で。その件で一度、兄からLINEがきたが、実情とやってほしいことだけ伝えて終わった。

そんななので、私からの連絡もなく、兄には父の様子はわからない。便りがないことが無事な証拠で、大丈夫だろうと思っているのもあるし、あまり触れたくないのもあるのだろう。兄は全く私にも父にも連絡をしてこない。

父の退院の時に、部屋に必要な書類や預かってくれていた母の遺骨を部屋に戻すように伝えてあり、不在中に合鍵で入った兄は、書類と遺骨と食料を置いて帰っていた。レンジで温めるご飯や即席味噌汁の入った袋には、兄嫁の文字で宅食についての価格や連絡先の書いた紙も入っていた。

兄夫婦から父の退院とその後も引き受け、それに対する感情を棚の上に置いていた私は、少し救われた気になった。

「一応、気にかけてくれてるじゃん」

「助かるなぁ」

その時の父と私は、心の中に引っかかっていた兄、兄夫婦への黒いすすのような気持ちを、ぱぱっと払いのけることができた。

父はお礼の電話をしてみるといい、私は白いご飯の他に入っていたかやくご飯が美味しいと言っていたよと後日、伝えた。

こんなペースでなんとかなるのかなと思っていたが、

人に期待するな 自分に期待しろ 人には感謝するのみ

こんなペースで、と私は期待しすぎていた。ちょいちょい気にしてもらえると勝手に思い込んでいた。兄のペースは実に緩やかで気まぐれだった。

そのあとは2〜3ヶ月ごと、忘れた頃に宅急便で食材が届く。かやくご飯が良かったよの私の言葉を受けて、次もかやく御飯が入っていた。その次は、冷製スープセット。老人の食欲を考えてのことだろう。しかしAmazonから送ったため、誰が送ったかわからなかった。(私と父の間では、多分、兄だよとなっている)

考えて送ってくれている食材だが、父の生活環境や食欲は刻々と変わるので、量とか内容とか、本当はリクエストをしたいくらいだ。だけど、それをするのだとしたら父からだ。だから、私は何も言わない。そして、父もお礼で電話してありがとうと言うだけで、何がいいとか欲しいとは言わない。病院でのうまくいかなった会話のことも頭の中にあるのだろう。何かをお願いするとわがままとなってしまうと。

ただ、定期便(本当は不定期便だけど)のたびに父がお礼の電話をして、少しでも兄と話す、それだけでいいか、と思っている。

もともとは人に贈り物をするのが好きなのが兄だ。誰よりも父の日や母の日、誕生日に旅行のお土産。何かを贈るという習慣を我が家で実践していたのは兄だった。兄が父に何かを送ろう、何かしてあげたいと思ってくれていることは、本当にありがたいなと思う。それが私や父に対する後ろめたさであろうと、なんであろうと、ありがたい。ウエルカムだ。

そういえば、あまり減っていなかった冷製スープは、父の家の昼ごはんで勝手に私もいただいた。「これ美味しいじゃん」と言ったら、父はちょっと笑っていた。

急に送られてびっくりするけど、でもいいよね、と。

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