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ファーストステップ司法書士35「お金はないから車でカンベンして!【代物弁済】」

AはBから100万円を借りており,お金がなくて未だに返せずにいますが,100万円相当の車を持っています。Aはこの車を引き渡すことで,100万円を返したことにできないでしょうか?
☑ 参考条文 ☑
【473条】
 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは,その債権は,消滅する。
【482条】
 弁済をすることができる者〔弁済者〕が,債権者との間で,債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において,その弁済者が当該他の給付をしたときは,その給付は,弁済と同一の効力を有する。
☑ 用語解説 ☑
『 弁済 』
債務の内容である一定の給付を実現して債権者を満足させる行為のこと。今は「履行」と同じと捉えればよい。

【1】意義

契約等によって発生した債権は,弁済によって目的を達成して消滅します(473条)。例えば上記の事例では,Aがきちんと支払期日までに100万円を支払えば〔弁済〕,Bの債権は消滅します。この「弁済」がいわば債権消滅の正規ルートです。また,他にも弁済と同様に債権を消滅させる手段があります。それが代物弁済契約や次頁で学習する相殺です。代物弁済(契約)とは,債務者が負っている債務の本来の給付に代えて他の給付をする契約を言います(482条)。例えば,上記の事例のような,100万円のお金を支払わなくてはならないところを,車でカンベンしてもらうようなものをいいます。代物弁済によって債権消滅の効力が生じるのは,目的物の給付があった時,さらに言えばその対抗要件を備えた時ですが(482条,最判昭39.11.26)(※1),目的物の所有権が移転するのは,その代物弁済の合意(契約)があった時です(最判昭57.6.4)。
※1 例えば,代物弁済の目的が不動産の所有権を移転することにある場合は,当事者が代物弁済の意思表示をするだけでは足りず,その登記をした時に債権消滅の効果が生じます。

【2】趣旨

代物弁済は,債務者にお金がなかったとしても,債務者の所有物から債権を回収できることにメリットがあります。また,代物弁済の目的は債務を消滅させることにあるため,債権消滅の効力が生じるのは,債権者が確定的に目的物を取得した時,すなわちその対抗要件を備えた時とされていますが,代物弁済による所有権移転の効果は債権の消滅とは別問題であるため,所有権移転の効果は代物弁済の合意(契約)があった時に生じるとされています。

【3】解答

AはBとの契約により,車の代物弁済を行うことができますが,この車をBに引き渡さなければ,100万円の貸金支払債務は消滅しません(車の所有権は代物弁済の合意(契約)があった時に移転する)。

★やってみよう!★
【過去問 平成18年第17問ウ】
☑ 債務者が,本来の給付に代えて自己所有の動産の所有権を移転する合意を債権者とした場合には,当該動産が引き渡されない限り所有権移転の効果は生じない。
➠× 当事者間で代物弁済の合意がされた場合,その代物弁済契約の意思表示があった時に目的物の所有権が移転します(最判昭57.6.4)。

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