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ファーストステップ司法書士20「司法書士のメイン業務“登記”を知ろう!【物権変動】」

AはBから甲土地を2月1日に買いましたが,BはCにも甲土地を3月1日に売ってCに登記名義を移してしまいました。Aは「私が先に買ったのだから甲土地は私のものだ!」と主張していますが,この主張は認められるでしょうか?

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☑ 参考条文 ☑
【177条】
 不動産に関する物権の得喪及び変更は,…その登記をしなければ,第三者に対抗することができない。
【1条】
 ②権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
☑ 用語解説 ☑
『 対抗要件 』・・・「この土地は俺のものだ!」「いやいや,俺のものだ!」といったように1つの物をめぐって争っている関係を対抗関係という。このような対抗関係にあるときに,所有権等の権利を主張するために必要となるものを対抗要件という。なお,対抗関係にある相手に所有権を主張することを「対抗する」という。
『 信義則 』・・・権利の行使や義務の履行は,相手の信頼を裏切らないように誠意をもって行わなければならないとする原則(1条2項)。

【1】意義

売買契約があった場合のように,所有権などの物権が契約等で移転したりすることを物権変動といいます。物権変動が生じるには意思表示のみで十分であり,登記が必要になるわけではありません。契約の当事者であれば,所有権を相手に主張するには,売買契約の存在を主張すればよく,対抗要件の登記は必要ありません。問題となるのは,契約外の第三者に対して所有権を主張するときです(※1)。不動産の所有権の帰属について争いがある場合,第三者に対して所有権の移転を主張する(対抗する)ためには,登記が必要とされています(177条)。第三者は登記を備えていれば,第1の売買について悪意であってもかまいません。しかし,単なる悪意にとどまらず,「登記を備えていないだろ」と主張することが信義則(1条2項)に違反すると認められる者〔背信的悪意者〕は,177条の「第三者」に当たりません(最判昭31.4.24等)。背信的悪意者の典型例としては,第一の取引をした買主を害する意図で売主に働きかけて第二の取引をした買主が挙げられます(※2)。
※1 上記の事例でいうと,Aから見たBは「当事者」であり,Cは「第三者」当たります。なお,上記の事例のようにニ度にわたって同じ物を譲渡することを二重譲渡といいます。
※2 上記の事例でいうと,Cが「Aが先に買った」ということを知っていたとしても,登記を備えてしまえば,Aは所有権の取得をCに主張できません。しかし,CがAに甲土地を高く売りつける目的でBから甲土地を買ったならば,Cは背信的悪意者に当たるので,Cが登記を備えたとしても,AはCに甲土地の所有権の取得を主張することができます。

【2】趣旨

所有権などの物権は目に見えないため,誰が所有権を持っているかを外から判断できるように,公に示す必要があります。その一つの例が,不動産登記制度です。対抗要件として登記を要求することで,不動産登記制度を維持し,取引の安全を図っています。ただし,背信的悪意者のようなとんでもなく悪い人は保護するに値しないので,登記を備えていたとしてもダメだというようにしたのです。

【3】解答

原則として,AはCに甲土地の所有権を主張できませんが,Cが背信的悪意者に当たれば,Aは登記なくして甲土地の所有権を主張することができます(177条)。

★やってみよう!★
【過去問 平成17年第8問ウ】
☑ Aは,甲土地をBに売却した後,Cにも甲土地を売却し,Cへの所有権移転の登記をした。この場合において,Cがいわゆる背信的悪意者に当たるとしても,Bは登記を備えていないから,Cに甲土地の所有権の取得を対抗することができない。
➠× Cが背信的悪意者に当たれば,Cは177条の「第三者」に当たらず,BはCに登記なくして甲土地の所有権の取得を対抗できます(最判昭31.4.24等)。

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