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ファーストステップ司法書士42「敷金を返してもらおう!【賃貸借】」

Aは,Bのアパートの一室を借りて住んでいますが,転勤をきっかけに出て行くことになり,3月1日に契約を解約し,その後1か月間居座って4月1日にアパートを明け渡しました。Aは敷金をいつ返してもらうことができるでしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【601条】

 賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる。
【622条の2】
 ①賃貸人は,敷金(…賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。…)を受け取っている場合において,次に掲げるときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
[一]賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。

【1】意義

賃貸借契約とは,貸主〔賃貸人〕が借主〔賃借人〕に目的物の使用・収益をさせ,借主が賃料を支払う契約をいいます(601条)。賃貸借契約は,タダで物を貸す使用貸借契約とは異なり,対価である賃料を必ず取らなければならない有償契約です。また,不動産の賃貸借契約を交わす際は,敷金を取るのが通常です。敷金とは,賃借人が,目的物の明け渡しまでに生じた賃料等の賃借人の債務を担保するために,契約成立の際,あらかじめ賃貸人に渡しておくお金のことを言います(622条の2第1項括弧書)。敷金は賃貸借契約が終了し目的物の明渡しがあると,賃借人の債務を差し引いた残りが賃借人に返還されます(同条1項1号)。このように,あくまで敷金の返還時期は「明渡時」であることから,賃借人は敷金を返還してもらっていないことを理由に留置権・同時履行の抗弁権を行使することはできません(※1)。
※1 「建物明渡し➠敷金返還」の順になるわけです。留置権・同時履行の抗弁権を主張するには,被担保債権の弁済期が到来していなければなりません。しかし,敷金返還の弁済期は“明渡時”なので, 賃貸借契約が終了した時点では,弁済期は到来していません。だから賃借人は留置権を主張することはできません。

【2】趣旨

そもそも,敷金は,賃料支払請求権などの債権を担保するために設定されるものです。その敷金の担保的機能を重視して,賃貸借契約の終了時ではなく明渡時までの損失を担保できるものとしました。つまり,敷金返還請求権の発生時期を返還時までに引き延ばしたのは,賃貸人保護のためです。

【3】解答

Aは,Bのアパート明渡しが終了した4月1日になって初めて敷金の返還を請求できるので,Aは3月1日の時点で,「敷金を返してもらっていないからアパートは引き渡さないぞ」と主張することはできません(622条の2第1項1号)。

★やってみよう!★
【過去問 平成6年第6問3】
☑ 賃貸借契約に基づく敷金返還債務は,契約が終了した時に生じる。
➠× 敷金返還債務が生じるのは,賃貸借契約終了時ではなく,建物明渡時となります(622条の2第1項1号)。

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