見出し画像

ファーストステップ司法書士39「手付金って一体何?【売買・手付】」

AはBの店の20万円のスーツを買おうと思いましたが,持ち合わせが少なく,2万円を手付金として渡しました。しかし,その後に気が変わり,スーツを購入することをやめました。Aはどのようにしてこの売買契約を解除できるでしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【555条】
 売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
【557条】
 ①買主が売主に手付を交付したときは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を現実に提供して,契約の解除をすることができる。ただし,その相手方が契約の履行に着手した後は,この限りでない。
☑ 用語解説 ☑
『 手付 』・・・契約締結の際に,当事者の一方から,相手方に対して交付する金銭等のことを言います。手付には,解除権を留保する意味で交付する「解約手付」,契約が成立した証拠となる「証約手付」,債務不履行があった場合に,ペナルティーとして没収される「違約手付」の3種類がありますが,民法は「解約手付」を原則としています。

【1】意義

売買契約は,所有権など売主の財産権を買主に移転する代わりに,買主が代金を支払う契約をいいます(555条)。これにより売主は代金支払請求権を持ち,買主は目的物引渡請求権を持ちます。売買契約を締結する際,手付を交付することがよくありますが,これは大抵,交付した手付を利用して契約を解除できるとする解約手付です(557条1項)。この解約手付を使った解除〔手付解除〕の方法は,買主がするか売主がするかによって違いが生じます。買主の手付解除の方法は,「手付金の放棄」です。一方,売主の手付解除の方法は,「手付金の倍返し」です(同条1項本文)(※1)。上記の事例でいうと,買主AはBに交付した2万円を放棄することにより,売主Bは受け取った2万円の倍額である4万円をAに償還することによって手付解除をすることができます。ただし,手付解除は,契約の相手方が履行に着手するまでにしなければなりません(同条1項但書)。
※1 売主が手付解除をする場合,手付金の倍額を現実に提供する必要があります(557条1項本文)。買主が手付解除をする場合には,手付金が売主の手元にある状態ですることになるため,これとバランスをとって,売主が手付け解除をする場合にも,手付金を買主の手元においてするようにしているのです。

【2】趣旨

解除は,原則として債務不履行がないとすることができませんが,解約手付を交付していた場合,債務不履行がなくても解除することができます。ただし,契約の相手方が履行に着手した後に手付解除できるとすると,相手方が予想外の損害を受けます。そこで,相手方保護のため,相手方の履行着手後は手付解除ができないとしました

【3】解答

AはBに交付した手付金2万円を放棄することによって,このスーツの売買契約を解除することができます。ただし,BがスーツをAに提供していた場合は,履行に着手したといえ,Aは解除することができません(557条1項但書)。

★やってみよう!★
【過去問 平成13年第17問オ】
☑ 解約手付が授受された売買契約においては,当事者の一方は,自らが履行に着手した場合には,相手方が履行に着手していないときでも,当該売買契約を解除することができない。
➠× 契約の相手方が履行に着手した後は,手付解除をすることができませんが(557条1項但書),履行に着手した者からの解除は認められます(同条1項但書反対解釈)。

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?