【記述式】申請の個数の判断-数個の法律関係を1個の原因関係と評価する例外①(蛭町講師)
複数の法律関係を1個の原因関係と評価する原因関係の個数例外
【1】 遡及効のある法律関係
例えば,遺産分割のような遡及効(民909)を有する法律制度では,Aが死亡し法定相続が生じ,相続人BCが甲土地をBが相続する旨の遺産分割協議をした場合,明らかに法定相続の法律関係と遺産分割の法律関係と2個の法律関係が存在している。
しかし,遡及効により相続開始時から遺産分割の結果でBが甲土地を単独相続したことになるため,中間省略登記になることなく原因関係を法定相続1個と評価し,1個の相続による所有権移転登記を申請すれば足りることになる(平18)。
81・平18-甲地の連件1 遺産分割による相続を原因とする所有権移転登記
ちなみに,既に共同相続登記がされている状態で遺産分割をした場合,遡及効の扱いをどうするかの解釈は不明確で,現在,民法・不動産登記法改正の対象となっており(更正登記を単独申請する改正が予定),令和2年の法定相続登記後の遺言発見による更正登記と同様,出題者が関心をもつ領域となっている。
この考え方は,相続開始後,行われ絶対的遡及効をもつ相続放棄にも妥当し(昭55,平9,平12,平15,平22),これについても上記と同様の改正が検討されている。
【2】 代襲相続
甲土地のAが4月1日に死亡し,その相続人BCのうちBが5月1日に死亡しその相続人がDであれば「数次相続」となり,2個の法定相続の法律関係に対応し,2個の原因関係が判断できるため,これに対応して2個の相続による登記を申請する(平30,平31)。
これに対して,甲土地のAが4月1日に死亡し,その子BCのうちBが3月1日に死亡していれば,「以前死亡」としてBの相続権は喪失し(民887Ⅱ),Bに子DがいればDがBを代襲して被相続人Aの法定相続人となる。この場合も,明らかにAの相続とBの相続と2個の法律関係が存在している。
しかし,Bの相続はAの相続の相続人の修正事由としてAの相続関係に吸収され,結果としてAの相続の登記を1個申請すれば足りることになる(昭55,平15,平18,平22)。この理は,相続人Bが廃除されている場合にも妥当する(平12)。
ただし,代襲相続の要件である子が存在しない場合(平25),子が存在しても縁組前の子の様に被相続人との間で直系卑属性が認められない場合(平27)は,Bの死亡が単に相続権の喪失となるに過ぎない(民887Ⅱ但書)。
2・昭55-土地建物の一申請単件 法定相続による所有権移転登記
【3】 一部移転と不分割特約
AがBに所有権の一部を売却し,ABが不分割特約を締結すれば,明らかに一部売却と不分割特約の2個の法律関係が存在することになるが,一部移転登記の登記事項として不分割特約を登記できるため,1個の一部移転登記の原因関係となる(平4)。
これは,旧法で明文の規定(旧法39の2)が存在したため,実務の連続性から認められる制度の歴史に由来する取扱である。
34・平4-土地の連件1 売買による所有権一部移転登記(共有物分割禁止特約を含む)
34・平4-土地の連件1 売買による所有権一部移転登記(共有物分割禁止特約を含む)
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