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ファーストステップ司法書士13「勘違いした!それでも契約って守らなきゃいけないの?【錯誤】」

Bに賃貸を申し込まれたのが甲建物なのに,Aが別の物件である乙建物の賃貸を申し込まれたと勘違いして承諾してしまいました。この場合,Aは契約をなかったことにできないでしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【95条】
 ①意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
 [一]意思表示に対応する意思を欠く錯誤
 [二]…
 ③錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,…第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。…
☑ 用語解説 ☑
『 重過失 』・・・注意を著しく欠く重大な過失。
『 軽過失 』・・・重過失ではない普通の過失。軽度の過失というわけではありません。

【1】意義

上記の事例のように,自らした意思表示がその真意に対応していないことを表意者が認識していない場合を錯誤と言います(95条)。要するに勘違いです。上記の事例で言うと,Aは内心では乙建物の賃貸を承諾しようと思っているのに,甲建物の賃貸を承諾しています。そしてこの食い違いに表意者であるA自身が気付いていなかったので,Aのした意思表示は,錯誤によるものということになります。意思表示に対応する意思を欠く錯誤による意思表示がされた場合,表意者はその意思表示を取り消すことができます(95条1項)。しかし,何でも錯誤による取消しが主張できるわけではなく,錯誤が法律行為の目的および取引上の社会観念に照らして重要なものであるときでなければ,錯誤による取消しを主張することはできません。つまり,些細な勘違いだった場合,それを理由に錯誤による取消しを主張することができません(95条1項)。また,表意者に重大な過失〔重過失〕がある場合においても,原則として取消しを主張することができません(95条3項柱書)。

【2】趣旨

錯誤の規定は勘違いをした表意者の保護の観点から設けられていますが,表意者本人がそのままでよいと考えるのであれば,その意思表示を無効にまでする必要はないため,「取り消すことができる」という扱いにとどまっています。一方,錯誤が法律行為において重要な要素であることや,表意者に重過失がないこと〔無重過失〕を要求するなどして,取引の安全にも配慮しています。

【3】解答

Aの錯誤が法律行為の目的および取引上の社会観念に照らして重要なものであり,Aに重過失がなければ,Aはこの賃貸借契約について,錯誤による取消しを主張することができ,甲建物を賃貸する必要はありません(95条1項)。

★やってみよう!★
【過去問 平成3年第21問1】
☑ AB間の売買契約において,Aの錯誤が,法律行為の目的および取引上の社会観念に照らして重要なものであり,重大な過失に基づくものであったときであっても,Aは錯誤による売買契約の取消しを主張することができる。
➠× 表意者に重過失があれば,原則として錯誤による取消しを主張できません。

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