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ファーストステップ司法書士32「嫌がらせか?そんな契約は取消しだ!【詐害行為取消権】」

AはBに貸した100万円の支払期限が過ぎているのに返してもらっていないにもかかわらず,Bは残っている唯一の財産である車(300万円)をCに贈与してしまいました。Aは何とかしてBのCに対する贈与に口出しできないのでしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【424条】
①債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者〔受益者〕がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは,この限りでない。

【1】意義

詐害行為取消権とは,債務者がその債権者を害することを知って契約等の行為〔詐害行為〕をした場合に,債権者がその取消しを裁判所に請求することができる権利をいいます(424条以下)(※1)。上記の例で言うと,Aは自分の持っている100万円の貸金返還請求権を回収するために,BC間の車の贈与契約の取消しを裁判所に請求します(※2)。その後,AはBの車に強制執行をかけることで,100万円を回収することができます。なお,詐害行為をする人に債権者を害する意思〔詐害意思〕があり,それについて詐害行為を受ける人〔受益者〕が,詐害行為によって債権者を害することを知っていないと〔悪意〕,詐害行為取消権を行使することができません(424条1項但書)。
※1 債権者代位権を行使する際は,裁判所に請求する必要はありませんが,詐害行為取消権を行使する際は,必ず裁判所に請求しなければなりません(424条1項本文)。債務者の財産への干渉が正当なものかどうかを裁判所がチェックする機会を設けるためです。
※2 詐害行為取消権を行使するためには,債務者が財産を持っていない状態〔無資力〕であることが必要となります。債務者が弁済するのに十分な財産を持っているのなら,わざわざ債務者の行為を取り消す必要はないからです。

【2】趣旨

詐害行為取消権は,債権者代位権と同じく,債務者の財産を保全して債権を確実に回収できるようにするための制度です。詐害行為取消権はすでになされた債務者の財産の処分を取り消すものですから,債務者と受益者に与える影響が大きいといえます。そこで,詐害行為取消権の要件として裁判上の請求や債務者の詐害意思・受益者の悪意などを要求することで,この制度を慎重に運用する仕組みにしています。

【3】解答

Bが「Aに100万円を回収されまい」という詐害意思を持って贈与をし,Cがそれを知っていた場合(悪意),Aは,裁判上で詐害行為取消権を行使することでBのCに対する贈与を取り消し(424条1項本文),その後,車を強制執行にかけることで,100万円を回収することができます。

★やってみよう!★
【過去問 平成2年第10問2】
☑ 目的物の処分に際して債権者を害することを受益者が知らなかった場合でも,知らなかったことに過失があるときは,詐害行為取消権を行使することができる。
➠× 詐害行為取消権を行使するには,受益者の“悪意”が必要になり,過失では不十分です。

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