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ファーストステップ司法書士18「彼のその権利,もらえます。【取得時効】」

Aは甲土地を自分の土地だと思って家を建て10年間住み続けましたが,ある日,甲土地の所有者Bが家に怒鳴り込んできて,「この土地は私のものだ!」と主張しました。Aは家を取り壊して甲土地を明け渡さなければならないのでしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【162条】
 ①20年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その所有権を取得する。
 ②10年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,善意であり,かつ,過失がなかったときは,所有権を取得する。

【1】意義

時効とは,一定の事実状態が一定期間継続すると,それが真実の権利関係であるかどうかに関わらず,その事実状態をそのまま正当な権利として認める制度をいいます(※1)。時効には,取得時効と消滅時効の2種類がありますが,今回は取得時効について説明します。取得時効とは,権利者らしい状態が一定の期間継続することによって権利取得の効果が得られるものです。この「一定の期間」は占有者が善意・無過失か,それ以外かによって変わります。占有開始時に善意・無過失であったならば,10年の占有の継続によって取得時効が認められますが〔短期取得時効〕(162条2項),それ以外,つまり悪意や有過失の場合は,20年の占有の継続によって取得時効が認められます〔長期取得時効〕(162条1項)。なお,この善意・悪意等の判断時点は占有開始時となります(大判明44.4.7)(※2)。
※1 上記の事例でいうと,真実の権利関係は,「Bが所有権を持っている」状態であるが,「Aが10年間住み続けている」という権利者らしい事実状態を尊重し,「Aが所有者である」といったように正当な権利として認めるということです。
※2 例えば,土地の占有を始めたときは善意無過失だったが,占有を始めてから5年目で,その土地が他人の土地だということを知ったとしても,10年の短期取得時効を主張することができます。

【2】趣旨

時効制度は,長く続いている事実状態を法律上も尊重することで,社会秩序・法律関係の安定を目的としたものです。また,長年の経過により証拠がなくなり,権利の立証が難しいという状況から救うことも狙いになっています。

【3】解答

Aは甲土地を占有し始めた時に,甲土地がBのものであると知らず〔善意〕,「自分の土地だ」と思うことに落ち度がなければ〔無過失〕,短期取得時効を主張して,甲土地の所有権を取得し,結果として,甲土地の引渡しを免れることができます(162条2項)。

★やってみよう!★
【過去問 平成21年第7問エ】
☑ AがB所有の甲土地を,所有者と称するCから買い受け,これにより甲土地が自己の所有となったものと誤信し,かつ,そう信じたことに過失なく8年間占有した後に,甲土地がB所有の土地であることに気づいた場合,その後2年間甲土地を占有したときであっても,Aは甲土地の所有権を取得しない。
➠× 善意・悪意等の判断時点は「占有開始時」であり,ここではAが甲土地を占有し始めた時です(大判明44.4.7)。その後,途中で他人の土地であることに気づき,悪意になったとしても,残りの2年間占有を続ければ,Aは短期取得時効を主張することができます。

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