見出し画像

「推定する」と「みなす」の押さえ方

今回は,令和3年度本試験で出題のあった「推定する」と「みなす」の区別を問う問題の対策についてお話ししたいと思います。


【1】令和3年度本試験における出題

令和3年度本試験では,「推定する」と「みなす」の区別を問う問題として,次の出題がありました。どちらも肢のアに配置されていたため,これを軸に判断してしまった方も多いのではないでしょうか。

①【午前の部 第18問 ア】
売買の目的物の引渡しについて期限があるときは,代金の支払についても同一の期限を付したものとみなされる。≪×≫

〔解説〕売買の目的物の引渡しについて期限があるときは,代金の支払についても同一の期限を付したものと推定される(民573条)。これは,みなし規定ではない。

②【午後の部 第4問 ア】
私文書は,本人の署名又は押印があるときは,真正に成立したものとみなされる。≪×≫

〔解説〕私文書は,本人又はその代理人の署名又は押印があるときは,真正に成立したものと推定される(民訴228条4項)。これは推定規定であり,みなし規定ではない。

【2】「推定する」と「みなす」の違い

「推定する」とは,当事者間に別段の取り決めがない場合,又は反証が挙がらない場合に,ある事柄について法令が一応こうであろうという判断を下すことをいいます。

これに対して,「みなす」とは,本来異なるものを,法令上一定の法律関係につき同一のものとして認定してしまうことをいいます。これは,当事者間の取り決めや反証を許さず,一定の法律関係に関する限りは絶対的に同一のものとして扱う点で,「推定する」とは異なります。

【3】「推定する」と「みなす」の押さえ方

上記のような「推定する」と「みなす」の区別を問う問題が見られる以上,普段から,これらの区別を踏まえて学習をすることが必要になりますが,これらの区別はそれぞれの規定の制度趣旨から考えれば簡単に押さえることができます

例えば,上記①で問われている民法573条は,引渡時期に期限がある場合,その時に代金を支払うことになるだろうという当事者の意思を推測した規定です。そこから考えれば,「推定する」規定であることが導けます。

また,上記②で問われている民事訴訟法228条4項は,私文書に本人・代理人の署名・押印があるときは,真正に成立したものであろうと捉えることで,立証負担を軽減し,訴訟活動を円滑にする規定です。そこから考えれば,「推定する」規定であることが導けます。

このように,普段の学習からこのような制度趣旨を踏まえて学習を進めれば,記憶の定着がしやすいだけでなく,「推定する」と「みなす」の区別を容易に押さえることができ,いちいち面倒な暗記をする必要はありません

【4】現場判断のポイント

理想は上記の趣旨を普段の学習から意識しておくことですが,すべての趣旨を押さえて勉強するのも困難であるため,現場判断における区別のポイントをお伝えします。

次の「推定する」「みなす」の規定における制度趣旨をまとめました。制度趣旨を押さえていない知識に関して「推定する」と「みなす」の区別が問われても,どの制度趣旨に当てはまるのかを考えれば,現場判断がしやすくなります。

「推定する」ー当事者意思の推測(上記①)・立証負担の軽減(上記②)
「みなす」ー法的安定性・公平性の確保・取引の安全

上記のまとめは,普段テキストに制度趣旨の記載がない場合にも推測する材料としても役立つので,ぜひご活用ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?