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ファーストステップ司法書士21「所有してなくても認められる権利って?【占有権】」

3月1日,Aは自分の持っている車をBに売りましたが,4月1日,Bに引き渡す前に,車をCに盗まれてしまいました。Aはもう所有者ではありませんが,Cに車を返すように請求できるのでしょうか?

無題

☑ 参考条文 ☑
【180条】
 占有権は,自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
【200条】
 ①占有者がその占有を奪われたときは,占有回収の訴えにより,その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
☑ 用語解説 ☑
『 自力救済の禁止 』・・・紛争が生じたときに,その解決をケンカなどの当事者に任せれば,「強い者勝ち」の世の中になってしまい,社会秩序が乱れてしまいます。そこで,暴力などで紛争を自ら解決すること〔自力救済〕は禁止されています。

【1】意義

上記の事例では,AはBに車を売っているので,3月1日の時点から車の所有者はBとなります。しかし,未だに自分の車庫において車を“事実上”支配しているわけです。このような,物を“事実上”支配している状態を占有といいます。所有権など,占有権以外の物権は,物を実際に支配しているか,つまり占有しているかどうかに関係なく成立する権利であり,いわば物に対する権利の根拠となるものでした。これに対して占有権は特殊で,物を現実に支配しているという事実から認められる権利,つまり物を手元に置いておくことによって認められる権利です(180条)(※1)。いってしまえば,泥棒にもこの占有権が認められます。この占有権によって占有者は,占有物が奪われた場合に,その物の返還を請求することなどができます(200条1項)。ただし,占有権を主張するためには,自己のために占有する意思,つまりその物を所持することによって利益を得ようとする意思が必要となります(180条)(※2)。ですから,意思無能力者は,この意思を持つことができないので,占有権を取得することができません。
※1 このように,所有権と占有権は別の概念であることから,上記の事例のように,所有者と占有者がずれることは十分ありえます。
※2 ただし,この意思は物の所持を生じさせた原因の性質に従って客観的に判断されます。

【2】趣旨

占有権は,個人の物に対する支配の現状を保護して,自力救済禁止の原則を実現することによって,社会秩序を維持することを目的としています。加えて,所有権などの証明が難しい場合でも,証明の簡単な占有権を主張することができるというような訴訟上のメリットもあります(※3)。
※3 日常生活に置き換えて考えて見ると,「自分がこのペンを所有している」ということより,「自分がこのペンを所持している」ということを証明するほうがよっぽど楽ですよね。

【3】解答

Aは車を所持しており,占有権が認められるので(180条),占有権に基づいてCに車を返すように主張することができます(200条1項)。

★やってみよう!★
【過去問 平成元年第6問1】
☑ 意思無能力者は,物を自ら所持することによっては,その占有権を取得することはできない。
➠○ 占有権を取得するためには,自己のために占有する“意思”が必要なので,意思無能力者は占有権を取得できません。

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