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石破首相に期待する「脱-地方創生」と「地方創生2.0」

「逆説的にはなりますが、石破さんには「地方創生」はもうやめてほしいです。」

JBPress(2024)「石破茂新総裁へ「“地方創生”はもうやめよう」鳥取県の集落をともに行脚した盟友が語る、地方を思う石破氏への期待」

「これまでのように、国が地方自治体を引っ張っていくという形での政策推進はやめていただきたいということです。」

JBPress(2024)「石破茂新総裁へ「“地方創生”はもうやめよう」鳥取県の集落をともに行脚した盟友が語る、地方を思う石破氏への期待」

これは、石破首相と縁が深い元鳥取県知事で、菅内閣では総務相を務めた片山善博氏が最近のインタビューで語った言葉である1。

地方創生は、それまで国が進めてきた地方分権(地方自治体が、地域課題の解決や地域づくりに対して主体的に取り組めるようにするための改革)とは、真逆のアプローチを採用してきた。それは、国が地域活性化やまちづくりの方向性を定め、目標を共有し、それに沿った優れた事例を横展開していく、そのために交付金を配分するという方針である。

地方創生が採用した「目標管理型統制システム」の功罪

政治学者の礒崎初仁氏は、地方創生における統制の仕組みを「目標管理型統制システム」と呼ぶ2。

目標管理とは、企業経営で広く採用される管理手法である。それは、組織のリーダーがメンバーに自ら目標を設定させ、目標達成のために自律的に仕事をさせ組織を方向づけていく手法である。その目的は、組織の方向性を踏まえた目標設定を行うことで、組織と個人の目標をリンクさせ、組織の目標達成と個人のモチベーションの維持向上を同時にかなえることにある。

これを、国-自治体関係に当てはめて磯崎は次のように説明する。

「目標管理型統制システム」とは、①国がある政策課題に対する目標・方針を定め、②自治体がこれに適合する目標・方針を定め、③その実現に向けて施策事業の実施と効果検証を行い、④このプロセスを履行する自治体に財政支援等のメリットを与えるシステムである。

このシステムには、自治体の自主性や主体性が確保されるように見えて、実態は国の目標・方針に縛られ、目標や方針の策定や評価など幅広い負担が発生し、努力しても財政支援等が得られる保証がないという問題を抱えている。更に、統制者側の意向に沿った”正解”に対しては各種補助が厚くなっていく一方で、統制者側の意向に沿わない”正解”に対しては補助がつかない傾向がある。

地方創生下で生じた、過度な自治体間競争

目標管理型統制システムの下では、同じ目標、同じ方向性を多くの自治体が目指していくこととなる。本来、地域が活性化していくための方法は十人十色であるはずなのに、各地域の色は脱色されていく。その結果、地方創生によって生じたのが過度な自治体間競争である。

NHKが全国の都道府県と市区町村の首長を対象に行なった調査によれば、42.6%の自治体が「自治体間の競争が激しくなっていると思う」と回答、36.4%が「どちらかと言えばそう思う」と回答しており、約8割の自治体が近年、自治体間競争が激しくなっていると感じている。これは地方創生の功罪の”罪”であろう3。

具体的にどのような政策分野で競争が激しくなっているのか。NHKの調査によれば、「子育て支援や子育て世代の誘致」「移住定住促進」そして「ふるさと納税」などの分野で競争が激しくなっていることが明らかになっている。

地方創生の10年間が終わった。しかし東京一極集中や地方の人手不足の是正といった当初から掲げられてきたゴールは、ほんとど達成されていない。

石破首相による地方創生2.0のために必要なこと

石破首相は今後、ますます地方創生を加速させていくことを名言しており、所信表明演説では地方創生交付金倍増を目指す方針で調整していくとしたが、果たして地方創生2.0に向けていま何が本当に必要なのだろうか4。

第1期地方創生、第2期地方創生の丁寧かつ詳細な振り返りを

第一に行うべきは、第1期地方創生、第2期地方創生の詳細かつ丁寧な振り返りである。内閣官房は2024年6月に「地方創生10年の取組と今後の推進方向」と題する地方創生の振り返り的資料を公表した5。

しかしその内容はあまりにも表面的で薄っぺらいものであった。気になる人は読んでみてほしいが、まとめるまでもない誰の目に見ても明らかな課題が並べられる一方で、本質的な「なぜ?」、つまり課題の要因はほとんど追求されていない。

石破首相は、地方創生の10年間をより適切な形で振り返り、地方創生2.0に反映する必要があるだろう。この作業がなければ、今後の地方創生もきっと同じ失敗を繰り返す。

地方の自主性を信じた、財政面の地方分権による地方創生を

第二に行うべきは、自治体が使途の制限なく自由に使えるお金を増やすことである。異なる言い方をすれば、財政面での地方分権の推進である。

現状、地方創生下の多くのお金は「これをやったら補助金をあげます」という仕組みになっている。しかしこれは地方分権とは言えないし、地方自治体による地方創生とは言えない。

もちろん、片山氏も指摘するように、これは理想論の域を出ないかもしれない。国は「そんなこと言ったって、いま地方に考える力はないじゃないか」と考えているからです。「何でも使える財源を与えてしまうと無駄遣いするに違いない」と1。

しかしでは国は地方を考える力があるのだろうか。答えは、Noだろう。未来の見通しが立ちづらく、課題も複雑化した現在、国が一律で地域づくりの面倒を見るなんてことは不可能である。先程の片山氏の言葉の続きを借りれば、国は「我々は地域づくりに対する見識も能力もありません」という姿勢からスタートするべきなのである。

石破首相には、何よりもまず「地方が現状かかえる課題は苦しいものが多いが、未来はきっと明るくなる」「私も頑張るから、皆さんにも頑張ってほしい」と言葉にし、態度と具体的な政策で背中を押すことを期待したい。国が旗を振る地方創生からは脱し、旗を振り明るい未来を目指す地方を支える役割を国が担った時、地方創生2.0が成功するのではないだろうか。

【地方移住定住や関係人口、持続可能なまちづくりに関する講師講演、執筆、メディア出演、関連事業の支援サポート等を行っております。まずはお気軽にフォームよりご連絡ください。伊藤将人のプロフィール

参考資料

1. JBPress(2024)「石破茂新総裁へ「“地方創生”はもうやめよう」鳥取県の集落をともに行脚した盟友が語る、地方を思う石破氏への期待」
2.磯崎初仁(2021)「地方創生施策の展開と地方分権 ―「目標管理型統制システム」の有効性 ― 」自治総研通巻511号 2021年5月号.
3. NHK政治マガジン(2023)「人口獲得大競争 私たちが自治体を“選ぶ時代”に?」
4. NHK(2024)「石破首相 所信表明演説で地方創生交付金 倍増目指す方針で調整」
5. 内閣官房(2024)「地方創生10年の取組と今後の推進方向」


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