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幻夢コレクション メアリー・スーを殺して

読了日:2024/3/30

乙一、中田永一、山白朝子、越前魔太郎、作品解説 安達寛高によるショートストーリー

「幻夢コレクション  メアリー・スーを殺して」    表紙

📚愛すべき猿の日記    乙一

【あらすじ】
僕はいつものようにこの棺桶のような部屋でふたりの友人とドラッグをしていた。
ある日、母から送られてきた宅配便の中に、薄汚いインク瓶がひとつ入っていた。
それは七年前に失踪した父が使用していたものらしい。
それから、僕の生活は驚くほど変わり始めた。


【感想】
普段、映画のシナリオ構成を参考にしながら書いているという乙一さん。もっと自由に。そう依頼され、シナリオ理論を意図的に排除して作られた作品らしい。
コミカルさや感覚的なことに対する言葉の選び方などは、他の作品と変わらないように思えた。
読みはじめのすっきり感はあまりなく、乙一作品好きの自分には珍しく、あまりワクワクしない始まり方だった。
しかし物語が佳境に向かって走り出してからはあっという間読み切ってしまった。
映画を集中して観たあとの感覚に似ている…。



📚山羊座の友人    乙一

【あらすじ】
風の通り道に建つ一軒家のベランダに、毎回、おかしなものが引っかかる。
写真や雑誌、古着やタオル。英語の新聞やハングル文字の書類など、外国から飛ばされてきたらしいものまで混じっている。
さらには知らない文字で綴られたノートや犬、未来の新聞まで。
この新聞に書かれていることは本当に起きるのだろうか?だとしたら……


【感想】
この切ないモヤモヤ感を味わうと、乙一さんの本を読んだ気分になる…。
乙一さんの話に出てくる主人公たちは、普通の子供(または大人)だが何処か聡く、考える力を持っていると感じる。
謎や不思議なことに直面すると「それはなぜ?」「いや、でも…」と。その結果、大人を出し抜くこともある。
本作はいじめ問題に言及したストーリーとなっているように思うが、読み終えたあとの「ほんとうに悪いのはだれか」という感情が止まらず、やりきれない気持ちになる。
最後のどんでん返しと「そうきたかー!」という驚きは、痛快でありながら、真実から目を逸らしたくなる程のやるせなさを孕んでいる。



📚宗像くんと万年筆事件    中田永一

【あらすじ】
私は母子家庭で友人がいて、たまに嫌がらせをされたりする、普通の子供だ。
ある日、同級生が無くした万年筆が、私の鞄から出てきた事で犯人扱いされてしまう。
友人も離れてしまい、先生も信じてくれない。
足が動かず学校へ行かれない…。
そんな時に声をかけてきたのは、貧乏で不潔で嫌われ者の宗像くんだった。


【感想】
始まりは「盗んだ」「盗んでない」という不穏な始まり…。
特に先生の贔屓や対応については腹立たしく思い、読む手が止まってしまうくらいだった。現実世界にいて、大事な人が関わってたら、学校に乗り込んで行ったかもしれないな…うん…。
宗像くんと話すようになって、彼がとても利発な子供であることがわかるし、触発されて彼女もプラスに考えられるようになった点は安心して読めた。
切ないラストだったけど、大人になって彼と彼女に進展があってほしいと願ってやまない。



📚メアリー・スーを殺して    中田永一

【あらすじ】
メアリー・スーを殺すに至った動機と、その後の数年間について書こうとおもう。(本文はじめの1行を抜粋)
好きなものに没入してしまう癖を持つ「私」。
見た目は冴えなくても、妄想の中では何でもできた。創造物の中では常に自由だったのだ。
部活に入った私は小説を書き始め、どんどんのめり込んでいくうちに……。


【感想】
出だしが不穏すぎて、殺人事件を想像しながら読み始めてしまった…。
現代でも通用する…むしろ、現代だからこそ共感する作品だと思った。
今流行りの(?)、「推し」への愛は、皆こうなのではなかろうか。
推しに会い、人生が変わった。推しに会い、仲間が増えた。そういった経験を持つ数多くの人のうちの、そのひとりの人の実体験と言われても驚かないようなストーリー。
ファンタジーのような劇的なストーリーではないが、傍から見れば劇的な変化。
ところで、メアリー・スーとは誰かと思いながら読み始めたが、物語の中でその話が出ている。ひとつ賢くなった気分だ。
2作品読んで、中田永一作品は好きかもしれない、文章が好きだと感じた。
今度、別の本も借りて読んでみよう。



📚トランシーバー    山白朝子

【あらすじ】
玩具屋の店先でそれと出会った。
本格的なものではなく、青色の本体に黄色いボタンのついたトランシーバーのセット。
買って帰ると息子は喜び、たいそう気に入って、俺や妻にごっこ遊びをせがんだ。
ある日クソ地震が起きて、クソ津波が来て、妻と息子を攫っていった。


【感想】
感のいい人はわかりましたよね、そうです、そういう感じのストーリーです。
という感想。
なんなら作品が始まる前の「解説」を読んだ瞬間、ストーリー構成や展開を察知してしまった。次作からは見ないようにしよう。
読んでみた結果、ストーリー展開もラストも想定通りという最もつまらない結果に。
読みながらの感想は(ですよね)(でしょうね)(そうなりますよねー)の三拍子。
文章も想像力を掻き立てられることはなく、余白もなく全てが書いてある通りで教科書みたいだと感じた。実につまらん。
読みながら先の展開を推理しちゃうタイプ、文章を映像化して読むタイプには最も向かないと感じた。
山白朝子作品、好きじゃないかも…。



📚ある印刷物の行方    山白朝子

【あらすじ】
図書館で書架整理の仕事をしている私のもとへ、ある男性が訪れる。
彼の口から出たひとりの男性の名前が、私を過去の記憶へと誘う…


【感想】
前作との相性もあり、少し憂鬱な気分での読みはじめ。
読み進めるうちに明らかになる、「私」の事情や想い。
前作よりは想像しながら読めてよかった。
生命の重さを問うような作品だった。



📚エヴァ・マリー・クロス    越前魔太郎

【あらすじ】
クソみたいな人生を送ってきた俺は、ひょんなことからエヴァ・マリー・クロスと出会う。
数奇な出会いに感謝しつつ、逢瀬を重ね、遂に恋人となる。
ある日、彼女が熱を入れていたボランティア団体の支援者が亡くなり、程なくして不穏な噂を耳をする…。


【感想】
どこまでが本当でどこからが嘘なのか、読み終えたあと、またはじめから読み返してしまう不思議さ。
はじめは推理小説のように地に足がついていたはずなのに、気づいたら濃霧に呑み込まれたように一気に不安定になる。最後は狐につままれたような気分に陥る。
まるではじめから存在していなかったように、けれど「俺」は分かっている、といった場面が心を痛める。
シリーズ作品を書いており、姉妹編とも言えるようなので、そちらも読んでみたいと思う。



感想...✍︎

乙一さん…安定して好きだと思った。
好きすぎていつも「さん」付けして呼んでしまっている…。
ラストが切なくても、しんどくても、作品の中には確かに誰かの愛が感じられるところが好き。
同作者の「石の目」「カザリとヨーコ」もおすすめ。

中田永一さんの作品は、おそらく初めて読んだと思うがとても好き!
テンポ良く進んでいく点やどんでん返しの展開は個人的に好み。
宗像くんをシリーズ化したら面白いだろうな…そうして彼も成長していくとか…どう?見てみたいな。
メアリー・スーは目からウロコだったし、意味を言われてみればすごく身近でわかりみしかない…。主人公はヲタクの鏡。いいぞ、もっとやれ。

とりあえず、解説だけは絶対最後に読んだほうがいい。ほぼネタバレ。展開書いてあるし。
読み終わったあとに見たら(あのシーンのとこ書いてあるな)って分かるから…。
あれ?普通の本だと最後にないっけ?なんではじめにあったんだろう…不思議。

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