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ダイバーシティ/インクルージョンの本質

5月はLGBT月間ですね。
日本でもあちこちでイベントが開催されていたりして、以前ほど違和感を感じたり排除されたりということは減り、存在が認められつつあるのではないかと思えるようになってきましたね。

このような活動は声を上げるだけでは不十分で、いかに行動に結びつけるかが肝心であり、それも企業にとって意味のある活動になっている必要があります。
そして、この時期になると、ダイバーシティとかインクルージョンについて色々考える機会が増えます。

外資系企業で仕事をしていると、性別だけでなく、年代や人種、そして様々な嗜好の違いを受け入れて企業としての力を最大化しようという意味でダイバーシティの教育、インクルージョンのためのコミュニケーショントレーニングが定期的に開催されます。
その中で、言葉の定義や考え方が提示されますが、日本のダイバーシティ推進とは異なった深さを感じることが多いです。

その中から幾つか、紹介したいと思います。

言葉の定義について

ダイバーシティもインクルージョンも英語です。
日本語では、前者が「多様性」後者を「包摂性」と言いますね。
ただ、私は「包摂」ってピンときにくい言葉だなぁ、と思っています。こんなの学校とかで習ったっけ、ってね。

Inclusionは中国語では「受容(パオヤオ)」と言うそうです。
この方が私にはピンときます。異なった考え方や人を受容する、受け入れるということですね。

少し前にNHKのズームバックxオチアイという番組で、落合陽一さんがオードリー・タンさんとの対談をしている中でインクルージョンのことを「誰ひとり取り残さない」と言っていたのが私にはとても印象的で、Inclusionの最適な翻訳だなと今は思っています。

さて、実際に外資系企業ではダイバーシティに関する言葉をどのように定義して捉えているでしょうか。私はそれが日本で語られているニュアンスとは微妙に違うと思っています。ダイバーシティの文脈で語られる一連の言葉の定義を並べてみると以下のようになります。

ダイバーシティの文脈で語られる言葉の定義

こうやって見てみると、ダイバーシティは決して人種・性別・LGBTQのような話ではなく、表に出てこない考え方の違いのようなものも指していて、その考え方の違いの起因するところが属性になっていることがわかります。
また、人の集まり(=グループ)がどのように他と区別されるのかを示すことにもなっていますね。

そして、この中でおそらくあまり聞かない言葉がRepresentationでしょう。
これは主にアメリカで言われている考え方で、特定の職務において様々な属性(人種、性別、世代など)からの代表(=Representしている人)が参画してる状態を担保しようという法律や条例の立法主旨になっている考え方です。

このRepresentationを日本に当てはめると、法律ではないですけれど「女性管理職登用推進」みたいなことになります。
なので、その意味でのダイバーシティ推進は、敢えて言いますが表面的なRepresentationに過ぎず、ダイバーシティの本質ではないのです。

AdvaMedのモデル

AdvaMedという医療機器業界の団体があります。
正式には、Advanced Medical Technology Associationの前半部分を略してAdvaMedと呼ばれています。あえて日本語にしてみると「先進医療技術協会」みたいな感じになるでしょうか。
AdvaMedのメンバーは2020年3月の時点で400人以上。ヨーロッパ、インド、中国、ブラジル、日本などの国々でグローバルに存在し、組織の中にも80人以上の従業員がいます。

AdvaMedは人々のより健康な生活と経済を達成するため、世界中の医療技術を進歩させる取り組みをリードする業界団体なのですが、それにあたっての考え方として特にInclusionに力を入れています。

当たり前ですが、命には重い軽いはありません。
あらゆる人が患者となり得ますし、それに向き合う医療従事者にもあらゆる人がいますし、そうでなくてはなりません。差別を行うことは倫理上の問題に直結します。
また、医療の現場は様々な専門性を持った人たちのチームで構成され、一人一人の視点と意見を尊重することがリスクを最小化し、最良の医療を提供することに繋がります。
よって、ダイバーシティとインクルージョンは医療にとって不可欠であり、その考え方を全面に出すことはとても重要なことなのです。
また、ダイバーシティを生かすためにはインクルージョンが前提となるとヘルスケアの業界では考える傾向があるので、「Diversity & Inclusion」ではなく「Inclusion & Diversity」とインクルージョンを前に持ってくることが多いです。

AdvaMedが発行しているものに、今はメンバーシップがないとみることができなくなってる”Advanced Inclusion and Diversity Model”という文献があります。
真の意味でDiveristyを推進するためには企業の活動の中に欠かせない要素があるというのがこのモデルの根底にあるのですが、5つの軸を使ってそれを表していて私はよくできているモデルだなと思っています。
日本語に超訳して図に表すと以下のようなものになります。

AdvaMedのモデルを模式図にしています

モデルの中ではDimension(次元)と言う言葉で要素と軸として表し、Compliance(規範)、Awareness(意識)、Integrarion:Talent(人材)、Integration:Business(業務)、Integration:Market(市場)と言う5つがあるようになっていますが、よく内容と見てゆくと、インクルージョン・アンド・ダイバーシティ(以下I&Dと略します)をどのように広げて解釈しているかのようになって行きますので、このような円心的な表記の方がピンと来るかと思ってこの図では書き換えています。
それぞれの要素がどのようなものなのか見て行きましょう。

規範設定の次元
I&Dに関するリスクの特定、定量化を行い、それらをやわらげたり、予防するためのインフラや組織能力、行動を、組織がどれほど持ち、実践しているかを見てゆきます。

構造面では、I&Dがリスクマネジメント視点から考えられ、マネジメントが監視する仕組みがあるような状態を目指し、ポリシーが設定されていたり女性管理職比率を見ているだけでは低レベルと見做されます。
行動面では、リーダーや人事に差別やハラスメントに対応するスキルがあるので安心して皆が意見が言える状態があることを目指し、コンプライアンスのトレーニングがあるだけでは不十分としています。

意識改革の次元
リーダーおよび社員がI&Dについてどのくらい認識しコミットしているかを見ます。
意識の領域には、教宣活動、支持行動、I&Dに関する知識、I&Dの事業価値と社員のエンゲージメント、ERG*(Employee Resource Group=社員同士の自主的な集まり)のような「草の根活動」の奨励、I&Dに関するガバナンス、そして、組織のI&D活動に対する外部からの認知を含みます。

構造面では、I&Dの成果基準としてEngagementが紐づけされて追跡されている状態を目指し、委員会などがあるだけでは不十分と見做されます。
行動面では、リーダー層がI&D推進の模範となりその重要性をアピールしてる状態を目指し、無意識のバイアス(Unconscious Bias)のトレーニングをしているだけでは不十分と見られます。

人事プロセスとの統合
I&Dがすべての人事プロセスに埋め込まれており、 どのようなInclusiveな行動が、どの程度人事プロセスを循環させる流れの中で発揮されているかを見ます。

構造面では、人事プロセスや評価基準がI&Dと統合されている状態を目指し、I&Dが独立して活動しているようでは低レベルと見られます。
行動面では、人事上の意思決定にI&Dが組み込まれている状態を目指し、人事プロセス上I&Dが語られていないようではだめであるとしています。

業務プロセスとの統合
業務の中でどのくらいI&Dが行われており、イノベーションの触媒となったり、業績の成果を出す要因となっているかを見ます。
また、どのくらいリーダーの意思決定や行動の中にInclusionが現れているかも見てゆく必要があります。

構造面では、I&Dが業務のエコシステムの中に組み込まれている状態を目指し、業務成果と紐づけられていないようではいけないとされます。
行動面では、I&Dが仕事の仕方(Way of Working)になっている状態を目指し、「I&Dも」と付け足しになっているようでは不十分と見ます。

市場対応との統合
組織のI&D活動がどのくらい市場、顧客、コミュニティ、患者への対応と統合しており、市場の中で競争優位性を強化するのに活用されているかを見ます。
また、どのようなInclusionと文化横断的な能力が重要な意思決定や市場戦略の中で発揮されているかも見てゆく必要があります。

構造面では、I&Dの成果指標が全市場の全マネジメントに埋め込まれ、持続性を確かにするため成果が定期的に評価される状態を目指し、多様な顧客の意見を聞く窓口があるだけでは不十分とされます。
行動面では、多様な顧客(医療業界の場合は患者を含む)との相互信頼が形作られている状態を目指し、一部の顧客しかカバーできていないようでは不十分とされます。

文献の中では、これら5つの要素についてどのくらい実践されているかを測るアセスメントがあり、実際にやってみると自分達の組織でのI&D活動にまだまだ発展の余地があることがよく分かります。
一言で言えば、お題目ではなくI&Dが組織の活動の中に統合されるように組み込まれているかどうか、そこまでやらないとI&Dを実践しているとは見做されないということなのでしょう。

エンゲージメントを生み出す関数

さて、I&Dを推進することの組織にとっての意味はなんでしょうか。
I&D推進が目的ではなく、それをすることで組織として何を起こしたいのか、I&D推進の目的や狙いはどこにあるのかをはっきりさせた方が良いでしょう。
それは、以下の式で表すことができます。

新しい言葉が出てきていますので、少し補足をしましょうか。

Uniquenessは、日本語にしてもそのまま「ユニークさ」になるでしょう。一人一人が特別な存在として尊重されている状態のことを指し、言い方を変えればこれがダイバーシティが担保されている状態になります。

Belongingは「所属意識」とも「仲間意識」とも訳すことができると思いますが、ここでの意味は、自分のユニークさを殺すことなく集団ともうまくやっている状態、あるいは集団の中で自分のユニークさが生かされている状態ということになり、これはとりも直さずインクルージョンのことを指していますね。

この式で言いたいのは、個人が組織にコミットして自分の力を出し切ってより頑張ろうというエンゲージされた状態になるためには、個人としてのユニークさ(強みや性格、スタイルなど)が尊重されて、それが伸び伸びと集団の中で発揮されている状態が必要ということです。

ここでは足し算になっていますが、ひょっとしたら掛け算かもしれません。
つまり、自分のユニークさが尊重されていたとしても、それが集団の中で発揮できなければ自己満足のために頑張れても組織にはコミットできないと言うことです。
また、集団の中で心地よくいるだけで個人としてのユニークさを発揮していなければ、組織のために頑張ってるとは言えないと言うことでもあるでしょう。


多様性(ひとりひとりのユニークさ)が認められて、それが集団の中で生かされてるインクルーシブな状態が実現すれば、そこから今までなかったアイディアが創発的に誕生したり、イノベーションやブレイクスルーを起こすことにつながります。

一人のリーダーが決めたことをメンバーが粛々と行ってゆくようなコマンド&コントロールの機械のようなチームではなく、それぞれの意見が尊重され創発的に磨き上げられて誰もが主役となれるコラボレーションのコミュニティにチームはなってゆくことができます。
グループの持っているポテンシャルが最大限に活かすことができますし、ひとりひとりが人としてイキイキと輝くことができるでしょうし、チームに属していることに誇りを持って毎日をワクワクと過ごせるようになるのではないでしょうか。

ダイバーシティやインクルージョンが目指している世界って、そんな感じなのでないかなと私は考えています。

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