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対話の価値を高める5つの原則

有志でAppreciateive Inquiryに関する洋書の読み合わせをしています。
Appreciative Inquiryは組織開発の手法の一つとして、組織開発の専門家の間で認識されているものですが、この本はその本質である「組織の中で行われるべき価値の高い対話」について論じされているもので、タイトルも「Conversation Worth Having(ベタには訳すと「行うに値する会話」)」となっています。

まだ読破したわけではなく8割がた読み終えたという所なのですけれど、この本の中で紹介されている「対話の価値を高めるための5つの原則」がなかなか秀逸で漸く私の肚に落ちてきつつあるので、ちょっと整理したいと思います。

Conversation Worth Havingとは何か

Conversation Worth Havingとは、話し合うことでなんらかの価値や進捗が生まれるような会話であり、対話のことです。
話し終えた時に「話し合えて良かった」と誰もが思えるような体験を生み出すような対話という言い方もできると思います。

そのためには、会話の中から未来への希望や新たな方向性、相互理解などが生まれてくることが必要であり、それが「価値を見出す」あるいは「価値を増やす」ことから始まります。
その価値とはこれから作り出すものというよりも既に自分達の中にあり大切にしているものであり、それらを再発見し肯定することです。

本の中ではそれを「Appreciative」と呼んでいます。
Appreciateは辞書的には感謝という意味ですが、平たくいうならば「有り難み」でしょうか。価値があり、それがかけがえのないものだから「有り」「難い」んですよね。

これは決して良い状況にある時だけでなく、むしろ最悪だと思える状況の中でこそ自分達が大切にしているものに気づき、その価値を認め、それを軸にして前に進むということなのです。

ここまで聞くとPositiveに前向きにってことなのかなと思われるかもいるかもしれませんが、いわゆる「ポジティブ」とはやや語感が異なります。
別のnoteでPositiveとAppreciativeはどう違うのかについても書いているので参照していただければと思います。

会話の価値を高める5つの原則

原則、原文ではPrinciplesとなっています。会話における原則の定義は「広義での人と人との関わり(Interaction)と巻き込み(Engagement)の全般で適用されるルールであり真実」とこの本では置かれており、言葉のやり取りだけに限ったものではなく考え方や姿勢に及んでくるものになっています。

原則には以下の5つのがあります。
1)構成主義の原則(Constructionist Principle)
2)同時性の原則(Simultaneity Principle)
3)詩的原則(Poetic Principle)
4)期待実現の原則(Anticipatory Principle)
5)肯定の原則(Positive Princicple)

一つ一つ、どんなことなのかをみてゆきます。

構成主義の原則(Constuctionist Principle)
ここで言う「構成主義」とは社会構成主義のことを指しています。つまり、人と人との関係性や相互理解、そして現実そのものを人がどのように認識するのかまでもが、言語や会話によって作り出されているという考え方です。
この考え方の実践は、以下のような行動・態度に現れます。
・あなたが相手に関わったときに持ち込んでいた意図や意味を振り返る
・自分の拘りを強く握りしめるのではなく、自己の視点や考え方については緩く握り(手放しやすいように)他者に対してオープンである
・他者を理解し新しい関係を作り出せるような言葉を選ぶ
社会構成主義に“Words create world“と言う言葉があります。発せられた言葉が現実を作ってゆくという意味ですけれど、言葉にはそれが持っている意図や意味があることを意識し、言葉が作り出す影響に自覚的である状態がこの原則を実践する姿勢ということでもあるでしょう。

同時性の原則(Simultaneity Principle)
会話や対話の中で発言や問いかけ(これは他者に対しても自分に対してもですけれど)が起きた瞬間から実は変化は起きており、それが起きる前の状態と同じであるという前提に立たないと言う考え方です。
この考え方の実践は、以下のような行動・態度に現れます。
・自分が使う言葉に自覚的になり、自分の意図にあった言葉を選ぶ
・使う言葉が自分自身や話しかける人々にどのような影響を与えているかに注意を払う
・単に人々の言葉に反応して返すのではなく、言葉の裏にある彼らの意図を明確にするために生成的な質問を投げかける
発された言葉の意味は受け取った相手の反応で決まります。こちらの意図が伝わり相手にとって意味ある反応を作り出すことができるようにすること、また意図を計りかねるのであれば問いかけて言葉に流されて行かないようにしてゆくと言うことでもありますね。

詩的原則(Poetic Principle)
全ての人や組織、状況は様々な視点から理解することができる。自分の視点だけではなく、他にどんな認識をすることがあり得るのか、その認識を作り出している人の中にあるナラティブに意識を向ける考え方です。
この考え方の実践は、以下のような行動・態度に現れます。
・判断を保留し、さまざまな考え方や見方に対してオープンであり続ける
・自分が意識を向けて集中しているものはより大きな絵の一部でしかないことを認識する
・物事を固定的に決めつけず別の可能性に目をむけ、恐れや心配ではなく楽しみを見出し、惰性で動かずにエネルギーの源や趨勢を捉えてそれに乗りに行く
・自分の人生で起きていることをどのように解釈するかは自分で選ぶことができることを認識する
言ってみればこれは、さまざまな物事の捉え方を楽しんでゆくような姿勢ということかと思います。構成主義の原則と一緒に考えれば、これは状況の解釈を自分でリフレームして新たな現実を想起できるということにもなってきます。

期待実現の原則(Anticipatory Principle)
私たちが持つイメージや思考が会話に現れ、それが未来に影響を与えてゆくのだとうい考え方です。
この考え方の実践は、以下のような行動・態度に現れます。
・ポジティブな結果を期待する
・求めていないことを恐れる代わりに、求めていることを期待する
・チャンス、より良いもの、真実、美しいものを探し求める
「引き寄せの法則」の考え方に近いように見えるかもしれません。この原則も前出の3つの原則と関係していて、期待していることが無意識の意図になり、それが言葉は態度として表出して、未来や世界を形作ることになるということですね。

肯定の原則(Positive Princicple)
問いかけが肯定的かつ生成的であればあるほど、肯定的かつ永続的な成果が生まれ出てくるという考え方です。
この考え方の実践は、以下のような行動・態度に現れます。
・可能性についての強力で肯定的なイメージを引き出せるような大胆かつ生成的な問いかけをする
Positiveには「明白」という意味もあるので、単に肯定的というよりも明確なものとして受け取ることができるよう素朴な問いかけを行うようなことなのだと考えてもらったほうが良いかもしれません。素朴ゆえに「大胆(原文ではbold)」となり得るというわけです。

これはちょっと分かりにくいかもしれないので、例を出しましょう。
親子の会話で、
親から「ね、今日学校どうだった?」と聞くと、
子供からの返事は「別に…」みたいになりませんか?
でも、
「ね、今日学校であったサイコーなことって何?」と聞いてみたら…
会話も関係性も変わると思いませんか?

会話が変われば組織も変わる

会話することに価値を生み出す、あるいは会話の価値を増幅させるための5つの原則についてみてきました。
5つの原則は単独で機能するというより、会話の中で絡み合いながら展開してゆくものです。

この本はAppreciative Inquiry(以降、AIと略しますね)の基本的な哲学のところについて触れているようでもあるのですが、組織開発の中で使われるAIは実はワークショップの手法ではなく、これらの原則を使った会話や対話をスケールアップして行うための仕組みであると本の中では明言されています。

例えば「ハイポイント・インタビュー」といったAIの中で使われる技法も、これら5つの原則を素人でも使うことができるようにスクリプトが周到に準備されていて、それを使っているから普段とは異なる会話が可能になるのです。

言い方を変えると、AIのワークショップのゴールは組織の中で交わされる会話の質を変えてゆくことであり、スクリプトやワークはそれらを組み合わせることで何度も何度も価値ある会話を実践して定着をさせてゆくためのものなのです。
会話がポジティブな創造的なものになってくれば、組織の雰囲気もポジティブになりより創造性が増してゆくことにもなるので、ワークショップの本来の出口は芽生え始めた会話の変化を如何にして継続させるか、で十分なのです。

人と人とが関わり合って共通の目標に向かってゆくのが組織だとしても、その関わり合いを作っているのは会話や対話です。
ワークショップなどと大きく構えるのではなく、まず自分自身と自分の周りの人との間でこの5つの原則に沿った会話を始めてゆくことが、一人一人が起点となる組織開発であり、それが最も効果があるのではないかなと私は思います。

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